次世代IPネットワークである NGN の構築が急ピッチで進んでいる。最近になり、その是非を含めた議論も活発になってきている。果たして NGN はどうあるべきなのだろう。
NGN とは?
NGN(Next Generation Network) とは、インターネット技術を使った次世代IPネットワークのことである。主に交換機を中心に構築されてきた電話網をIPネットワークで置き換えるものとして期待されている。また、信頼性が要求される防災や医療分野での次世代アプリケーションの基盤としても、利用が見込まれている。
IPネットワークとしては、すでにインターネットが世界中で利用されている。これに対して NGN では、インターネットで実現できていない高信頼性と品質保証を実現するために、現在のインターネットとは別のネットワークとして構築しようとしている。
インターネットでは満足できない?
果たして、本当にインターネットでは信頼性や品質が足りないのだろうか。多くの一般ユーザは、無料動画配信の Gyao や、無料IP電話の Skype の品質で満足している。確かにこれらのユーザが今よりもさらに増えたときにその負荷増加にインターネットが耐えられないという指摘や、これらの無料サービスがインターネットバックボーンのタダ乗りをしているという指摘もある。しかし、無料サービスにおける利用者負担の概念を整理し、インターネットバックボーンの帯域を増強すれば済む話のようにも思える。
一方、緊急通信等の防災などの用途を考えると、現在の電話網や専用線が実現している信頼性や品質に比べて、確かにインターネットは心もとない。先日開催された「世界情報通信サミット・ミッドイヤーフォーラム」における「インターネットは NGN と比べて『ぼろい』」という発言からも、そのように考える人も多いことだろう。
しかし、信頼性や品質を高めるためには、相応のコストが必要となる。NGN をインターネットと同程度に世界中に引くことを考えると、その利用料は現在のインターネット以上になるだろう。高コストと言う前提に立つと、防災や医療分野などの特定アプリケーションを除けば、一般ユーザはインターネットで十分なのではないだろうか。
一般ユーザの視点に立つと、NGN はあまりに高価なものに思える。しかも NGN は従来の電話網の代替になることがほぼ決まっている。そうすると、例えば固定電話や携帯電話の料金に、知らぬ間に NGN 分のコストが含まれていることになりかねない。一般ユーザが望んでいるわけではない高信頼性のために、無用なコストを払うことになりかねない。
新幹線よりも快速電車を
NGN を構築したからと言って、インターネットは相変わらず残るだろう。これは IPv6 が普及しても IPv4 が無くならないという事実と相似形である。そう考えると、NGN をインターネットと別のインフラとして構築するのは無駄なのではないだろうか。
例えば、インターネットの信頼性や品質を、NGN が目指すところまで高めて、NGN をインターネット上に仮想的に構築するのがコスト的に見合うのではないか。あるいは、NGN を新しいインターネットのバックボーンとして、一般ユーザも常時使えるようにするべきではないだろうか。
長年の技術蓄積を経たインターネットでは、高信頼性のためのシステム構成技術も、品質保証のための帯域保障(QoS)技術も、既に開発済みである。一般ユーザが望まない新幹線(NGN)を新たに作るのではなく、在来線(インターネット)を整備して、コスト負担の少ない快速電車が運行できるようにするべきだろう。
本文中のリンク・関連リンク:
- 日経新聞社主催の「世界情報通信サミット・ミッドイヤーフォーラム」
NGNに関する議論が繰り広げられた。 - USEN が提供する動画配信サービスGyao
- 無料IP電話の代表格Skype