オープンソースソフトウェア(OSS)を利用する企業は急速に増えているが、 OSS開発に直接携わる企業はまだまだ多くない。 しかし、最近いろいろな理由でOSS開発に乗り出す企業が増えているのも確かだ。 もちろん企業であるから、何らかの利益を見込んでのことである。
Linuxやミドルウェアの開発
大手ITベンダはこぞってLinux開発に参加している。 この理由は比較的分かりやすい。 第1に自社ハードウェアをLinux対応し、Linux市場でシェアを広げるためである。 一旦乗り出したからにはLinux市場自体を広げるために、 より信頼性を高め高性能に改良するためにもLinux開発に参加している。
OSSデータベースのMySQL社やアプリケーションサーバのJBoss社など、 海外ではOSS開発のプロジェクトリーダが専門企業を起業し、 ITベンダに対してサポートビジネスを展開している。 残念ながら日本ではそのようなOSS専門企業はないが、 有力なOSS開発者を抱えたサポートビジネスはいくつか始まっている。 PostgreSQLの商用版販売・サポートを行うSRA OSS Inc.や Linuxカーネルの障害解析サービスを提供するVA Linux Systems Japanである。
自社ソフトのOSS化
既存のメジャーOSSの開発に参加するのではなく、 自社ソフトをOSS化するビジネスも始まっている。 これも海外では、ERP/CRMのSugarCRMやCompiere、 グループウェアのOpen-XchangeやZimbra等の有力なOSS専門企業がある。
日本では、特定業務アプリケーションでいくつか事例が出てきた。 座席予約管理システムGARAGARDOAや CRMのSalesLaborである。 これらのOSS化は、知名度の向上と、パートナー企業の獲得が大きな狙いであろう。
パトロン型OSS開発
最後にパトロン型のOSS開発もあることを紹介しよう。 日本医師会は高すぎるレセコンの価格を下げるために、 自らスポンサーとなって日医標準レセプトソフトORCAの開発を発注した。 総務省の共同アウトソーシング事業では、国がスポンサーとなって、 複数の自治体で共同で利用できる自治体システムをOSSとして開発させた。
企業のOSS開発が真に成功するためには、多数のユーザを獲得することはもちろん、 開発者コミュニティが育つことが一番の鍵である。 特に自社ソフトのOSS化やパトロン型OSS開発では、 開発に参加する企業やプログラマが増えてこそ、 バザール型開発のメリットが出てくる。 その意味では、日本で業務アプリケーションのOSS化に成功した事例は少なく、 特に期待したい。
本記事に関連して 情報処理学会誌7月号のコラム「企業が作るオープンソース」に もう少し詳しい解説があります。情報処理学会会員の方はご覧下さい。
本文中のリンク・関連リンク:
- PostgreSQL商用版PowerGres (SRA OSS Inc.)
- Linuxカーネル障害解析サービス VA Quest (VA Linux Systems Japan)
- 外食産業向け座席予約管理システム GARAGARDOA (ニュートーキョー)
- オープンソースCRMシステム SalesLabor (ネットワーク応用通信研究所)
- 日医標準レセプトソフトORCA (日本医師会)