子どもたちを守る防犯インフラの使い道

子どもたちを襲う残忍かつ卑劣な事件が後を絶たない。 自分の目で子どもたちを見守れない時、 頼りにするのは防犯グッズや防犯システムであるが、 いったいどこまで信用できるのだろうか。

防犯グッズや防犯システムの光と影

防犯ブザーは導入コストがあまりかからないため、全国的に普及が進んでいる。 約2年前の時点で、すでに半数以上の小学校で導入されている。 しかし、いざという時に電池が切れていたり、手が届かなかったり、 あるいは不審者が怖かくて鳴らせないという問題が指摘されている。 さらに実際に鳴らせたとしても、他のベルと勘違いされたり、 周りに人がいなくて効果がないという可能性もある。

最近注目を浴びているのは、ICタグを利用したシステムだ。 関西の交通機関で利用が始まったあんしんグーパスは、 定期券兼用のICカードを持った子どもたちが、自宅や学校の最寄駅の改札を通過すると、 その情報を保護者の携帯電話にメールで送るという仕組みである。 大阪府や岡山県では防犯カメラと組み合わせて通過時点の画像を送る実証実験、 横浜市では子どもの存在をドライバーに知らせる実験など、 全国でさまざまな試みが行われている。 しかし、リーダでICタグを読み取る制約がある以上、 たとえUHF帯のICタグを使ってもリーダの数メートル以内を通る必要があり、 エリア全体をカバーするには相当数のリーダを設置しなければならない。

防犯目的に作られた携帯電話もある。 NTTドコモが発売したキッズケータイは、 現在地の確認ができるだけではなく、 電源が切られても一定間隔で自動的に現在地情報をメールで送ったり、 防犯ブザーを鳴らすと同時に登録先番号に発信するなど、対策がよく考えられている。 PHS網を活用して自治体が独自の端末を導入している例もある。 これらは幅広いエリアをカバーできる反面、 利用料が毎月それなりにかかるため、 守るべき子どもたちが多くなった場合には見過ごせない問題となる。

システム導入に伴う者とモノ

当たり前だが、このような防犯システムは導入して終わりというわけではない。

一つは人の介在が大前提という点である。 防犯ブザーの利用で指摘があるように、協力者がいなければ何にもできない。 事が起きた時に如何に迅速に状況を把握して適切に対応できるかが問われるが、 最終的に対応するのはシステムではなく人である。 周辺に住む人たちが力を合わせて子どもたちを見守るという良い動きがある一方、 個人情報保護の問題で、逆に地域と学校との距離が遠くなっているところもある。 協力者として誰を信用してよいか、今やその判断が難しくなっている。

二つ目の「モノ」は構築と運用にかかるコストである。 安全にはきちんとお金をかけるべきとは思うが、 自治体がそのインフラを整備して運用するには、相当な税金を費やすことになる。 それならば民間企業のインフラ、つまり携帯電話やPHSを使えばいいが、 東京・大阪では4人に一人、全国平均でも1割強が就学援助を受けている現状では、 家庭に毎月の利用料負担を強いるのも辛いかもしれない。

防犯インフラの使い方がカギ

やはり安全な暮らしを実現するためには、 このような防犯インフラは国や自治体が主体的に整備すべきだろう。 その構築コストを企業と折半できれば税金の投入は減らせるはずである。 さらに、ダークファイバーや電力線など既存のインフラを有効活用すれば、 構築コストは格段に抑えられる可能性がある。 例えば、企業には構築コストの一部を負担する見返りとして、 平常時はそのインフラを他の事業にも転用できるように許可しておく。 そして、有事の際は防災インフラとして、 国や自治体が主導権を握れるようにすれば、 防犯・防災インフラとして効率的な使い方ができるはずである。

もちろん、これらのインフラやシステムに過度の期待は禁物である。 なぜなら単に安心、あるいは安心「感」を得ているだけであり、 本当の「安全」を手に入れたわけではないからだ。 最終的には人の対応が必要であり、 システムやインフラはそれを支援するだけに過ぎない。 しかし実証実験や一過性の仕組みに終わらせないためには、 国や自治体と企業が協力して、継続して運用できる体制作りが重要である。