今年2月10日から「偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻しからの 預貯金者の保護等に関する法律」(いわゆる預金者保護法)が施行された。 キャッシュカードの偽造や盗難事故に対して、 特段の過失がない預金者への補償を制度化するものである。
拡大するキャッシュカード被害
警察庁の調べでは、平成16年の盗難キャッシュカード被害件数は14万2443件、 盗難・偽造キャッシュカードによるATMからの不正な現金引出しの認知件数は3114件、 その現金被害総額も約21億円に達している。この被害はなお急増しているのが実情だ。
このように、盗難・偽造の脅威が拡大するなかで 施行されたのが今回の預金者保護法である。 一般の預金者としては一安心であるが、 一方、風評リスクの拡大を恐れて、 補償制度を受け入れた金融機関の側に立ってみると、 偽造・盗難カードへの取組には、なお多くの課題を残している。
当面は現実解で安全性と利便性のトレードオフ
偽造・盗難カード対策として、 殆どの金融機関がまず実施しているのは、現実的な予防措置や被害拡大 防止策である。
例えば、予防措置にはATMの覗き見防止やATMコーナの防犯体制の強化などがある。 確かに、従来のATM周辺は暗証番号の覗き見等に対し無防備であり、ここは早急に 対処する必要がある。
一方、被害の拡大防止策では、引出限度額の設定機能を強化する動きが一般的だ。 引出限度額を低く抑えることは、 預金者にとっては利便性の低下につながる。それでも、キャッシュカードの脆弱性への 脅威が大きくなっているなかで預金者に一定の補償をするには、 安全性と利便性のトレードオフを許容してもらうこともある程度はやむ終えないだろう。
利便性と安全性の両立を目指すビジネス
ただ、金融機関には、さらにこのトレードオフの解消に向けた取り組みが 期待される。例えば、偽造・盗難カードによる不正払戻し自体を 防止する手段として、異常取引検知システムやICカードがある。 クレジットカードの不正利用を検知するノウハウを適用し、異常取引検知システム の強化に取組む金融機関は少なくない。
一方、大手行を除くとICカードに対応したATMの普及が遅れているため、 ICカードは喧伝されているほど「どこでも気軽に利用できる」カード になっていないのが実情だ。特に、利用者数が多いコンビニATMがICカードに 未対応なため、磁気ストライプとICカードの併用が必要となり、 コスト負担を増やしているのは確かである。
現在のICカードは、生体認証のようにやや安全性に力点をおいているが、 これだけでは、金融機関と顧客で分担するにせよ、コストの負担感は大きい。 そこで金融機関としては、ICカードの多機能性を活かし、個人取引サービスの総合的な 媒体としてICカードの付加価値自体を高め、その価値とコスト負担をうまく顧客の間 で分け合うビジネスモデルを追及することが鍵となる。
例えば、キャッシュ カードにクレジットカードやデビッドカードの機能を追加し、 さらにローンやポイント機能と いった金融サービスをパッケージ化した総合金融サービスカードのようなものが想定 される。ただ、携帯電話など競合または補完関係にある媒体も登場しているため、安全な 認証システムを具備したICカードを、どのような金融取引の媒体に育てるかは なお不透明な部分は多い。