IT技術者に夢を

情報処理技術者の地位が低すぎる。 いや、地位の低下というよりも、 周囲の環境が彼らを劣悪な状況に追い込んでいるというべきか。
2006年1月16日付けの週刊データコミュニケーション紙5面、 情報処理推進機構(IPA)理事長のインタビュー記事に、
ソフトウェア産業は「3K」イメージを持たれているという発言があった。

IT技術者が慢性的に疲弊しているこの現状。 はたして何がそうさせたのか? このままでいいのか?
この状況を改善するにはどうしたらよいだろう?

なぜこうなってしまったか

ソフトウェア工学は、土木工学、建築工学の後を追ってきた。 コンサルタントやアーキテクトといった職名がその名残を示している。
現在のソフトウェア産業の、下請、孫請、ひ孫請といった階層構造も、 土木建築業界に準じた慣例といえるだろう。
しかしソフトウェアは頭脳労働の産物であり、末端の状況が建築物とは違う。 ただ手足を動かせば完成するというものではなく、
度重なる試行錯誤が工程の遅れを引き起こす大きな要因となっている。

コンピュータが登場した初期のころには、 このモデルでも十分に適用できたかもしれない。
しかし問題は、複雑化するシステムとソフトウェアについていけていないことだ。
ハードウェアやソフトウェアの複雑化が、設計そのものを非常に繁雑な作業にした。
その結果、作ってみないと細かなところが決まらないという非常に不安な工程管理が日常化し、
ひいては上流工程での頻繁な仕様変更、デスマーチへとつながっていくのである。

このままでいいのか

資源に乏しい島国である日本としては、 IT立国を目指す以上、この現状を放置しておくわけにはいかない。
国策として、例えばIPAではソフトウェアエンジニアリングセンター (SEC)やオープンソースソフトウェアセンター (OSSC)を設立し、 ソフトウェア産業をめぐる逼迫した状況の改善に向けた様々な活動を実施している。

IPAに限らず、経済省や総務省を中心として多様な活動が計画され、遂行されている。 また大学や民間でも、研究会や研究開発を通じてソフトウェア産業の効率化を図っている。
この問題に対しては産官学一体となって状況改善に向けた活動を推進すべきだ。
我々もこの一連の活動に寄与すべく日々努力を重ねている。

どうすればいい?

ひとつのキーワードはやはり教育である。

昨年の夏、我々は、 OSSを活用して効果的にIT技術者教育を実施できるという仮説を検証するために、
高等教育機関におけるOSSを活用したIT技術者教育の調査を実施した。 そのとき、大学や専門学校でOSSを活用した実践的なIT技術者教育をやろうとしても、
入口で学生が入って来なければどうしようもない。
「高校生に、ソフトウェア開発の楽しさを知ってほしい」という意見をしばしば耳にした。

また一方では、小中学校の学年が挙がるほどIT活用の教育に興味を失っていくという データもある。 日本政府も本気でIT立国を唱えるのであれば、
子どもたちに対して夢を与えるような状況を創り出し、
将来なりたい職業ランキングのトップに「IT技術者」と書かせるようにするくらいの施策が必要ではないか?

IT技術者も技術一辺倒では不十分だ。 昨今問題となっているヒルズ系IT企業を見倣い、
ある程度はマーケティング能力を発揮すべきだろう。 これだけ情報が錯綜している現在では、
いかに優れた技術であっても受け身ではなかなか発掘され得ない。 (もっともヒルズ族は、やりすぎて道を踏み外してしまった。
それなりの節度は心掛けるべし。)

そして経営者は今こそIT技術者に投資をすべきではなかろうか? 昔、日経コンピュータの人気記事に「動かないコンピュータ」というシリーズがあった。 そして大型案件の失敗が昨今また目につくようになっている。
ちょっとした投資を惜しんでいると、 莫大な損害が起こり得るかもしれませんよ。

  • 情報処理推進機構(IPA)の試み:
    • ソフトウェアエンジニアリングセンター (SEC):ソフトウェア工学の観点からソフトウェア産業振興に貢献
    • オープンソースソフトウェアセンター (OSSC)オープンソースソフトウェア活用の観点からソフトウェア産業振興に貢献
  • 情報処理学会のソフトウェア工学研究会
  • 2005年の夏に実施した、教育/研修機関におけるOSS教育の実例調査の 報告書(PDF)
  • 「学校教育現場におけるオープンソースソフトウェア活用に向けての実証実験」 で実施したアンケート集計では、
    小中学校の学年が挙がるほど「授業の楽しさ」が減っていくという由々しき データ が確認された。
  • 日経コンピュータの「動かないコンピュータ」は書籍化されている。