密な気象センサーの秘める可能性

まだまだ厳しい残暑が毎日続いているが、 今は集中豪雨や落雷、台風など、天気予報が特に気になる時期でもある。 気象庁の半世紀の予報精度を見る限り、 降水の適中率は例年80%以上で毎年上がっているようだが、 天気予報が昔に比べて当たらなくなっていると思うのは気のせいだろうか。

予報が難しくなっている

気象庁は今年2月より、4次元変分法という新しい手法を採用しており、 若干ではあるが予報精度は改善している。 しかし気象関係の仕事をしている人に聞いた話では、 特に首都圏近郊は予報が難しくなっている状況にあるという。 内陸部に入り組んだ東京湾、ヒートアイランド現象、 沿岸部への高層ビル建設による風向・風量の変化などの要因により、 予報しづらくなっているらしい。 予報の元になる過去の気象データは年を重ねるごとに増え、 それを分析するスーパーコンピュータの性能も向上してはいるが、 目まぐるしく移り変わる都市変化には役に立たない面もあるようだ。

観測点の少なさも一因?

気象庁では全国各地の気象状況を細かく監視し、 より正確な天気予報とするために、1974年より アメダス(AMeDAS)を運用している。 しかし、アメダスの設置箇所は全国で約1300箇所であり、 単純に日本全土で平均すると、約17km間隔で設置されているに過ぎない。 これは降水量だけを観測する地点も含めた数字であり、 気温や風向・風速、日照時間まで観測している地点だけを見ると、 実に約850箇所(約21km間隔)でしかない。 約21kmという数字を都心に当てはめてみると、 東京駅を中心として東京23区がほぼすべてカバーできてしまうくらいの広さになる。 実際には、23区内には練馬区、世田谷区、千代田区、江東区、 大田区に設置されてはいるが、それでもやや心許ない感じがする。

もっと観測点を増やせば予報の精度も上がるのではないかと思うのだが、 アメダスで採用されている観測装置は施工費込みで1台約1500万円もかかるらしく、 運用の手間まで考えると簡単には増やせないのかもしれない。

気象センサーは増やしたいが…

それならば、安価な気象センサーと通信インフラを活用して、 観測点を飛躍的に増やせないだろうか。 数十万円のセンサーで、アメダスの観測装置とほぼ同性能の製品は存在するし、 単機能で性能がやや落ちるものでもよければ、数万円で手に入ってしまう。 アメダスはデータ伝送にINS回線を使用しているが、 都心部ならば既存のADSL回線や公衆無線LANも通信インフラとして活用できる。 アメダスの観測装置1台の価格で、10〜30ヶ所程度の新たな観測地点を増やせるに違いない。 公衆無線LANのアクセスポイントと一体化させれば、さらに密度の高い面展開が期待できる。

しかし、観測に使用する装置は検定に合格した製品に限ることが気象業務法で定められている。 さらに、研究・教育目的以外で観測した気象データを公表する場合には、 その検定合格品を使用した上で気象庁に届け出るように義務付けられている。 つまり、安価な気象センサーを勝手に設置して一般に公開することは、 残念ながら今の法制度下では認められていない。 観測自体が禁じられているわけではないが、 取得した気象データを有効活用できなければ、 よほど自らが必要としていない限り、センサーを設置する人は少ないだろう。

現在入手可能な気象データとは

気象データは単に天気予報や日常生活のために必要とされているわけではなく、 実はビジネス面でも大いに活用できる可能性がある。 たとえば、電力会社の需要予測、鉄道会社の荒天対策、 天候デリバティブを提供する保険業界など、 より詳しい気象データを必要としているところは意外に多い。 レーダーにより広範囲の気象状況を観測して公開している 事例も見られるが、 それはごく一部の大企業に限られ、 第一次産業に従事する個人や多くの中小企業などでは、 一般に公開されているデータを利用するしかない。

日ごろ目にする天気予報であっても、 財団法人気象業務支援センターが配信する気象データを元にしているため、我々もこれを利用するしかないが、 アメダスの1エリアのデータだけでも月額35000円程度の負担が必要になる。 金額だけを見ればそれほど高くないと感じるかもしれないが、 本当に必要としているデータかと言うと実態はそうではないだろう。

気象センサーが設置されれば

個人的には東京アメッシュのようなサービスで、自宅近辺でいつ雨が降り出すのかが正確にわかればよいが、 気象に左右される仕事に関与されている方はそうも行かない。 身を守るためにも自分の行動範囲の気象予測をできる限り細かく知りたいはずで、 そのためには、より密度の高い気象センサーの設置が必要である。 このようなセンサーが増えれば、打ち水や屋上緑化など、 現在さまざまなところで行われている試みの評価もしやすくなる。

気象予報の市場規模は約300億円で、ほぼ横ばい状態が続いているらしい。 しかし、センサーを密度高く設置できれば新たな可能性が生まれるに違いない。 精度の乏しいセンサーが不正確な情報を撒き散らすのも困りものだが、 まずは厳しい法規制の緩和に期待したい。