最近、自治体のITシステムの妥当性評価をいくつか実施している。 情報システム調達モデル研究会などもあり、 近年、必ずしもITのプロではない自治体職員に代わり 調達のため監査或いはコンサルティングを外部委託する自治体も いくつかでてきているが、深い専門知識がなくともある程度できる いくつかの事項をここに挙げてみる。
見積の検証について
ITシステムの見積の妥当性評価については、いくつか、留意すべきポイントがある。
まずは、ソフトウェア、ハードウェアそれぞれの調達項目が 必要かつ十分であるか検証することである。 見積の初期段階では、往々にして不必要な項目が含まれることが多い。 理由は、要求が不明確であったり、メーカの提案が他の自治体における経験をベースにしたものであるが 当該自治体にはあてはまらない部分があることなどによる。 これらを検証するためには、項目一点ごとについて、その内容を確認していかなければならない。
新規開発であっても、既存システムの更新であっても、 作業項目と見積根拠が明示されているべきであるが、 ベンダーの見積は項目は詳細であっても、 一つ一つの作業内容が不明瞭であったり、特に多く作業時間がかかるものに対する 説明が文章にてなされていなかったりすることがある。 場合によっては、数億の税金が投入されるシステムであるにも関わらず 全く見積根拠が不明瞭なものがある。 「著しく単価が高くないか」、「すべての作業を単一の単価で見積もっていないか」、 「妥当な作業工数であるか」、「同規模の他の調達例と比較してどうか」なども 妥当性検証の視点となる。 入札(総合評価を含む)では、競争原理が働くため 結果の金額としては大きな問題にはならないが、 特に随意契約によるシステム調達では、念入りな検証が必要になる。
確かな計画に基づいて作業項目が設定されるべきことを考えると、 スケジュール上の各フェーズと、見積上の作業項目は、当然整合していなければならないが、 これがきちんと整合しているものが意外と少ない点にも留意すべきである。 段階的に詳細度が増すソフトウェア開発において 見積精度をあげるためには、基本設計、詳細設計、開発というように フェーズを区切り、これごとに調達を行うのもの一つの方法である。 一方、昨今の流れの一つとして、調達するのはソフトウェアではなく、 サービスであるという思想のもとに、設計・開発から一定期間の保守まで含めた サービス(実際にはソフト+ハード+保守サービスであるが)を包括的に調達し、 サービス水準の維持のためSLA(Service Level Agreement)を締結するという パターンもある。この方法は、総額としての経費削減につながり易いが 初期の段階で要求を明確にしなければならない点に留意すべきである。
オープンシステム、オープンソースについて
自治体より、調達コスト削減のために、「オープンシステム、オープンソースソフトを採用できないか?」 といった相談を持ちかけられることがある。 尚、ここでオープンシステムとオープンソースを以下のように区別している。 オープンシステムは、メーカのOSやアーキテクチャに依存した ミドルウェアでなくOracle等ある程度メーカのOSやアーキテクチャに非依存(選択の余地がある)で、 組み合わせの自由度が高いシステムを指し、 オープンソースは、ソースコード自体が公開されており、改変可能なソフトウェアを指す。
オープンソースソフトは、無償であるから製品調達コストは限りなく安いと思われるかもしれない。 しかし、例えば、Linuxの場合、 実際のところ、ディストリビュータが保守サービスを提供する エンタープライズ版のLinuxの価格は、 WindowsのサーバOSと大差はなく、保守費も同様にかかる。
著作権を調達側に留保することにより、更新時の調達コストを安くするために、 オープンソースを採用するという方法がある。 プロプライエタリなメーカの製品は、著作権の塊であるため、 データ構造等ソフトウェアのアーキテクチャを開示できず 更新時に再構築しようとすると既存ベンダーが圧倒的に有利となり 随意契約にせざるをえないような状況があった。 しかし、開発部分の著作権を調達側に留保する契約では、 更新時もフェアな形で新規ベンダーの参入を許すことになり、 結果、競争を促進し、調達コストを削減できる。
ソフトウェアの保守費は一般的に購入価格の15%前後というのが慣習になっている。 従って、購入価格が高いソフトウェアの保守費はばかにならないということになる。 元々の不具合である瑕疵への対応は無償であろうが、 ここでの保守は、マイナーバージョンアップの無償対応等である。 しかし、導入当初のものが5年間しっかり動けばよいと考えれば、 保守費を毎年15%ずつ支払い続けるのはやや疑問ではある。 セキュリティ対策等継続的に必要となる保守作業に対する対価は必要であるから、 ソフトウェアの種類やバージョンアップの頻度によらず一律15%という点が 問題なのかもしれない。 オープンシステム、オープンソースを選択するのは、どちらかといえば、 当面の調達コスト削減というより、 極力ベンダー非依存な技術の採用により 将来に渡り競争原理を確保するのが狙いである。
調達ガイドラインについて
小さな政府、小さな自治体を目指して、また、失われたガバナンスを調達側に取り戻すために、 見積妥当性評価は、ますます重要になっている。 このためには、各自治体あるいはその連合が、 より精緻なガイドラインを作り、実態に合わせてこれを保守していかなければ ならないのではなかろうか。