ソフトウェアの世界では、 仕様やソースコードを一般に公開する動き、いわゆるオープン化が以前から見られるが、 最近ではこの流れが業務系のビル管理システムにまで広がろうとしている。 今、なぜビル管理システムのオープン化が求められているのだろうか。
シングルベンダ構築の功罪
従来のビル管理システムと言えば、 シングルベンダによる構築/運用がごく当たり前に行われていた。 例えば、空調システム、照明システム、エネルギーシステムなど、 それぞれを別々の企業が担当し、自社の独自システムを導入する。 その結果、各システムの保守/運用も同社が継続して担当せざるを得なくなるため、 その企業に随意契約となり、コスト競争がまったく働かなくなってしまう。 したがって多数の資産を有する大企業や自治体は、 既存施設の改修や新たな施設の整備にまで手が回らない状況に陥っている。
一方で、シングルベンダによる構築のメリットもある。 自社のシステムであれば、それが有する機能や運用ノウハウの蓄積が十分にあるはずで、 利用者から見ればこの方が安心感はある。 施設管理者から見ても、安全なシステムであることは最優先であり、 担当者からすれば契約作業やトラブル時の窓口という意味でもこの方が楽ではある。 しかし、システムの拡張性や保守性、 あるいはコスト効率やCO2削減など環境面の課題を考えると、 必ずしもある1社のそのシステムが最善であるとは限らない。 また、外部からの風が入らないことによる馴れ合いや、 IT業界と比較すると旧態依然とした企業体質が思わぬ弊害を招く危険性もある。
オープン化によるマルチベンダ構築
そこで求められるのが、各社のシステムを相互接続できるように仕様をオープン化し、 ビル管理システム全体をマルチベンダで構築することである。 この動きが主流となれば、構築時も運用時もコスト競争が働くとともに、 入退室管理システムや業務システムとの連携などの拡張性も期待できるようになる。 さらに、ISDNや専用線を使わずに安価なIPネットワークを活用すれば、 遠隔地から複数のビルを一括監視/制御して効率化することにより、 ビル常駐者の人件費を抑制できる点もコスト削減に大きく寄与する。
オープン化された仕様なら、すでにLonWorksやBACnetが業界標準としてあり、 それぞれの対応製品やシステムがあるからそれで十分ではないか、 と思われる方がいるかもしれない。 しかし実際には、LonWorks対応あるいはBACnet対応と言っても ベンダ間の相互接続は困難である。 これは他の製品やシステムの相互接続でも言えることだが、 仕様書では、データ交換の厳密なタイミングや細かいエラー処理などまで記述できていないため、 実装したもの同士で一つ一つ詳細なテストが必要になるためである。 これに加えて、ビル管理システムはもともと閉じたシステムであるため、 相互接続を意図して作られていなかったという要因もあるだろう。 手前味噌ではあるが このような相互接続実験を繰り返し行って、初めてマルチベンダによるシステム構築が可能となる。
オープン化に向けての課題
もちろん他にも解決しなければならない課題はある。 例えば、マルチベンダによるシステム構築を行うSIerが育っていない点である。 これは今まで仕様が十分に公開されていなかった故の問題ではあるが、 ビル管理者側からすれば大きく不安の残る要素である。 特にエレベータや防災関連など人命に関わる設備は慎重にならざるを得ないが、 逆に法制度や許認可制によりこれらの企業が保護されているため、 オープン化が進みにくいという側面もある。 コスト削減や参入機会の拡大などを目的とした安易な法改正は禁物だが、 大きな事故や惨事が起きて初めて見直されるようなことだけは避けてほしいものである。
いずれもすぐにどうにかなる問題ではなく解決までに時間はかかるが、 今や50年以上の寿命を求められるビルにとっては、 たとえ5〜10年程度かかるとしても決して長くはないだろう。