教育でもオープンソースを

2002年度から実施された新学習指導要領(いわゆる「ゆとり教育」)の影響でこ どもの学力が落ちた、とたびたび報じられている。ゆとり教育の是非は専門家に 任せるが、家庭や現場の先生に工夫できることもあるだろう。 今回は、教育にオープンソース的な考えを取り入れ、よりよい教育をつくることを考えてみたい。

教材はバザール型開発がしやすい

景気のよくないこのご時世、学校も家庭も新しい出費は抑えたい。世帯普及率が 9割に迫ったインターネット(平成15年通信利用動向調査)を使えば、先生方や 企業によって作成された教材が無償で利用できる。

たとえば、私たちがLinux PCの実証実験で関わっている岐阜県では、岐阜県まるごと学園 にて無償で教材が提供されており、不登校児の自宅学習にも使用されている。 企業では、NHKが動画中心の学校放送オンライン を提供している。NHK教育テレビのイ ンターネット版ともいえ、放送日時にとらわれず利用できる。

教材の開発はソフトウェア開発と似ている部分が多い。 一度作ったら終わりではなく、バージョンアップを続けて完成度を高めていく。 そういう意味では、教材開発にオープンソースの発想を取り込むのは容易だ。 特に企業ではなく先生方の作成した教材は、改変・再配布を自由にしてもらえる可 能性が高い。 先生個人や各教育委員会ごとに教材を作成しているのが現状で、良質な教材をす べての学年分そろえるのは時間的にも予算的にも厳しいものがある。 バザール型の開発を導入し、大勢の人が教材作成に関わればこれらの問題解決に つながるだろう。

指導案もオープンに

教材さえそろえば十分かというと、そんなことはない。 教材を使ってどのように授業を進めればいいのかわからないこともあるし、 家庭ではそもそも学校でどの教材を使っているのかもわからない。 そこで期待したいのが指導案・実践事例の公開である。

指導案には授業の目標・目的や進め方が具体的に書かれ、先生はこれに沿って授 業をしている。 遠く離れた学校の指導案を見られることは、先生にとって大きな刺激となる。 また、家庭にとってもうれしい。 これまで自分たちのこどもが受けている授業を知る機会は、年に1、2回の授業参観しかなかった。 指導案や実践事例があれば、授業内容をある程度把握でき、こどもとのコミュニケーションや家庭での教育もしやすくなる。

指導案を見た先生や家庭の中には、感想や提案をフィードバックする人もいるだろう。 教材開発と同じように、それを取り込み、指導案を改善していけば授業はよりよいものになるに違いない。

教育用SourceForgeがほしい

さて、教材や指導案を実際に公開するとなると、公開場所が必要になる。各学校 や教育委員会がバラバラに公開したのではコラボレーションしにくい。幸いなこ とに、日本では教育情報 ナショナルセンター(NICER)がかなりの量の教材や指導案のデータベースを 作成している。しかし、データは単元ごとにまとめられているが、量が多すぎて どれが優れた教材・指導案なのかがわからないのが残念な点だ。

そこで、NICERに教材・指導案開発の支援もしてもらえないだろうか。 オープンソース界にはSourceForgeやSavannahなどの開発支援サイトがある。 これらのサイトでは、オープンソースソフトウェアを開発 する上で必要な機能(ホームページ、メーリングリスト、掲示板、ソース管理シ ステム、ダウンロードサービスなど)が各プロジェクトに無償で提供されている。 また、活発なプロジェクトや人気のあるプロジェクトがわかる。NICERも教材・ 指導案開発に適したコミュニケーション、コラボレーションツールを提供するの だ。

最近発表された政府IT戦略本部のIT政策パッケージでもNICERの強化をうたっている。 NICERを検索するだけの一方通行のデータベースとするのではなく、自由にコラ ボレーションできる場とし、学校と家庭が一体となってよりよい教育を作り上げ ていくことはできないだろうか。