相手を考えた資料を作っていますか

自分の考えや伝えるべき内容を、人に短時間で正確に理解してもらうことは難しい。 相手が一人で面と向かって話ができるのであればそう難しくはないが、 複数のメンバーを相手にメールやWebで伝えるとなると一筋縄ではいかなくなる。 何かをまとまったことを伝える場合、 まず自分で資料を作ってそれを共有するという作業が発生するが、 相手に送る、あるいは公開する前によく考えていただきたい。

適切なファイル形式を選ぶ

PCで資料を作る行為は皆さんも普段からよくされているだろうが、 現状を見る限り、少なくとも私の周りの環境では、 箇条書きや文章ならWord、 表やグラフならExcel、 図やプレゼンテーション資料ならPowerPoint、 といった暗黙の了解が存在するように思える。 もちろん、 これらのアプリケーションはそれぞれの利用形態を主として開発されてはいるが、 それに縛られ過ぎてはいけない。

たとえばWordやPDFならば、 整形と印刷が必要な数ページ以上に渡る文章の作成に利用すべきで、 これらが不要な1〜2ページ程度の内容ならば単純なテキストファイルの方が、 ファイルサイズが小さくて済む。 Excelならば、表の中で計算が必要な場合にこそ使うべきであり、 単なる枠付きの書式や単純な表を作るために使うべきではない。 PowerPointで言えば、やはりプレゼンテーションにおける効果は絶大と思うが、 お絵描きツールとして使うのであれば、 GIFやJPEGといった画像ファイルで受け取る方がありがたい。

受け取った側で手を加える必要のある資料であれば、 これらのアプリケーションで作ったファイル形式のままが良いと思う。 しかし、一方的に参照するだけの資料ならば、 上に述べたようなファイル形式を考慮すべきではないだろうか。 その方がファイルを開くためのアプリケーション起動時間を節約できる。 さらに言うと、これらのアプリケーションで整形された資料であると、 かえって印刷したくなるというのは私だけだろうか。 紙を前提とした資料作りという、目に見えない呪縛に囚われているのかもしれない。

最近呆れてしまった身近な例を紹介しよう。 せっかくリンクという便利な仕組みがあるにもかかわらず、 情報を個別に電子ファイル化して直接リンクを張れないようにしてしまい、 あたかもファイルサーバのようにしか使っていないWebサーバ、 ペーパーレス会議だからとプロジェクタで映された内容を見てみると、 文字でびっしり埋まっていて読むに耐えない資料、 など笑えない体験も少なくない。

適切な表現を選ぶ

ファイル形式と共に重要なのは、その資料で使うべき用語や表現である。 たとえば単にCPと書いた場合、 それがコンプライアンス・プログラムを指すのか、 コスト・パフォーマンスを指すのか、 コマーシャル・ペーパーを指すのか、 はっきりしない。 その用語の使われている文脈からわかる場合も多いが、 まったく知らない人がその資料を見る可能性がある場合は、 安易な短縮表現や紛らわしい用語の使用は避けるべきである。 どうしても使いたい場合は、用語定義や注釈を付ける方が良い。

仕事柄、多くの人とシステムの仕様を検討する機会が多いのだが、 参加メンバーが多くなるほど、仕様を厳密に決める必要があるほど、 この用語問題に直面する。 実際には、それぞれのメンバーの経験、プロジェクト内での役割、 物事の捉え方などにより、さまざまな用語が入り乱れることになる。 もちろん用語リストを作りメンバー間で統一を図るのだが、 議論を進めるうちに古い言葉が出てきたり、各自の認識が甘かったりして、 気がついてみたら微妙に誤解が生じていた、という場合もある。

資料は人のためならず

短時間で効率良く資料作りをしたいというのは、忙しい誰もが考えることである。 ただ、その資料を見るのは誰か、どのように使われる資料か、 を忘れてはならない。 もし、あなたが本来30分かけて作るべき資料を、 時間が無いからと10分で作ってしまった結果、 それを見た10人が処理や理解のために5分余計に要する羽目になるかもしれない。 あるいは曖昧さが原因で誤解が生じてしまい、 かえって面倒な事態に陥るかもしれない。

資料として最も重要なのはその内容であることはもちろんだが、 内容さえ良ければ形式や表現がいい加減で良いということではない。 PCやネットワークの普及により、簡単に資料を作って送れる環境が整った今だからこそ、 見る相手を考えて適切な資料を作り、 相手に送る、公開することをもう一度考え直してもいいのではないだろうか。 多くは自戒を込めて。