廉価開発ソフトは誰のため?

IBM や Oracle の RDBMS や開発ツールといえば、業務アプリケーションを構築する上では定番ソフトだが、学生や個人プログラマからは価格面から「高嶺の花」として扱われてきた。しかし最近はこれらのソフトが非常に廉価に購入できるようになり、ちょっとした小遣い程度で手に入るものも登場した。今回はこうした現象について考えてみよう。

あの DB2 が 1,980円!

話題のソフトの代表としては、IBM の RDBMS である DB2 があげられる。メインフレーム、Unix、パソコンなどの上で動くマルチプラットフォームの業務用 RDBMS という印象が強いが、個人開発者向けのパッケージが 1,980円で販売されるようになった。筆者はこれまで Oracle の RDBMS をよく使っていたが、DB2 に触れてみるよいチャンスだと思い、思わず購入してしまった。

このほか、例えば IBM の主要な開発ツールの使用権や、Microsoft の主要な OS/開発ツールの使用権なども、通常価格に比べると、開発者向けには非常に廉価で売られている。業務アプリケーションを開発する人にとっては、たいへんありがたい状況である。

囲い込まれる開発者たち

開発者にとっては、無償で利用できる OSS(オープン・ソース・ソフトウェア)に加えて、このように商用ソフトにも触れるチャンスができるわけだ。OSS や商用ソフトの機能・性能を比較してよりよいプラットフォームを選択したり、商用ソフトの利用が前提の次期開発に向けて性能テストをしたり、ソフト自体に慣れておくことができる。

では、商用ソフトを廉価に供給する側の思惑は何だろうか。第一義には自社ソフトを取り扱える開発者を増やしたいということになるが、その裏には真の意味でのソフト開発者不足にある。昔はソフト開発者といえば、扱えるプログラミング言語によって識別できた。COBOLができればホスト系、VisualBasic ならばクライアントサーバソフトといった具合だ。しかし今ではプラグラミング言語とともに、RDBMS 、Web サーバ、アプリケーションサーバなどいわゆるミドルウェアを扱うスキルも開発者に求められている。このため、開発者のキャラクターは、どのようなミドルウェアを扱えるかによって細分化される。

こうなると、商用ソフトの供給者側としても、自社ソフトを扱える開発者の確保は切実だ。優れたプラットフォームだとしても、開発者がいないことにはアプリケーションは作れない。ソフト開発者が開発ツールに慣れるにはそれなりに時間がかかる。また、新たな開発ツールを試そうと考えた場合、費用のかからない OSS にまずは手が伸びるということもある。そこで商用ソフト側でも、一定期間無料で使える「試用版」や、上述したような廉価な開発者版を提供することにより、少しでもソフト開発者の目を向けようと努力するわけだ。ソフト開発者も、一度にたくさんのものを覚えることは難しいし、一度覚えたものを多くの開発に使えるに越したことはない。どんな開発ツールでも使える万能開発者はそうそういるものではない。こうして、商用ソフト側の開発者囲い込み作戦が進められるわけである。

バランスのよい開発者になるために

ソフト開発者不足となると、開発者側からみると売り手市場のように思えるが、実際に市場が欲しがっているのは「優秀な」開発者のみである。ここで言う優秀とは、よいコードを書ける優れたプログラマであると同時に、ミドルウェアなどの開発ツールを使いこなし、既存のソフトウェア部品を有効に活用できることである。

ソフトウェア開発の方法は、プロジェクトの進め方から実装技術に至るまで、日々進歩している。こうした進歩にソフトウェア開発者がついて行くためには、自ら進んで新しい技術に触れ、既存の技術と比較して取捨選択しつつ身につけてゆく必要がある。個人でカバー可能な範囲は自ずと限られてくるため、自分が今どのようなスキルを身につけているか客観的に把握し、常にバランスのよい開発者であることが求められている。