ユビキタスコンピュータといえば、 無線タグ(RF-ID)で実現される環境ばかりが注目されているがそれだけに限らない。 何にでもIDがついていれば確かに便利だ。 しかし、 そのIDを読み取るための機器、つまりセンサがなければ役に立たない。 ユビキタス環境を実現するためのキーとなるセンサに目を向けてみる。
さまざまなセンサ
センサの基本的な仕組みとしては、光や音、圧力、 加速度などの刺激を電気信号に変換することである。 また、特定のガスなどの化学的な反応を検知するものもある。 人間の出す特定の波長の赤外線を検知するものや超音波で距離を測るような ものもある。 同じ種類のものを測定できるセンサでも 測定可能な範囲(レンジ)や感度、大きさなどそれぞれ異なっているので、 用途に応じたものが使われている。 最近では、MEMS技術などを駆使して超小型化が進んでいる。 センサは意外と身近な存在だ。 実際、身の回りでは家電や自動車などの制御用に多数使われている。 部品自身の自己診断のためにセンサを組み込んでいるものもある。 例えば、CPUやハードディスクに、 温度センサが組み込まれていることはよく知られている。
センサのネットワーク化
センサ単体でもさまざまなものを測定することができる。 複数のセンサの情報を集めることにより、より詳細な状態がわかる場合もある。 また、ネットワークを経由して集めれば、広域の情報を知ることが可能だ。 気象データのアメダスや地震計のような広域における環境計測用基盤ネットワークが すでにできあがっている。
今後発売される情報家電には、これまで以上にセンサが組み込まれるが予想される。 特にユビキタス環境では、ユーザの状態や意図、周辺の状況に応じて、 機能することが期待されており、センサによる状態把握が不可欠である。 例をあげれば、家庭内での利用する家電を利用者がリモコンで操作するのではなく、 人の移動を検知して部分的に照明をつけたり、エアコンを調整したり、 利用者に合わせて番組を再生したりするような環境の実現には、 それぞれのアプリケーションや機器から、 ネットワークでつながった複数のセンサを統一的に扱えるようなプロトコルが必要だ。 そうした用途を含めて、家庭内機器を接続するためのネットワークとして、 ECHONETが国内では標準化されている。 また、同様にオフィスやビル向けとしては、BACnetやLONWORKSがあり、 ユビキタス環境を実現する基盤は用意されつある。
このような固定的なネットワークに接続されるものだけでなく、 特に設定をしなくてもセンサを置くだけで、自律的に設定されて機能したり、 無線でつながるような仕組みがあれば、よりユビキタス環境に適合しやすい。 そのようなものは、センサネットワークと呼ばれており、 センサが単純にネットワークでつながっているものとは区別されている。 常にネットワーク環境が変化しているので、 自律的に経路を選択するアドホックルーティングや、いわばP2Pのようなマル チホップな通信がサポートされていると考えられている。 最近では、まだ研究や実験向けながら、 そうした機能に対応したセンサを組み込んだ小型機器が出てきている。 特に有名なのは、カリフォルニア大学バークレー校で開発したMICAという製品である。 主に、セキュリティ対策やプラントの状態管理での利用を想定している。 例えば、こうしたセンサ付きの製品が1000円程度で売られるようになると、 家庭でも簡単に設置できるようになり、爆発的に普及する可能性もある。
ただし、こうした技術が製品になるまでには、もう少し時間がかかりそうである。 もちろん、すべてがセンサノードだけではあまり意味がないので、 何らかの出力を出すようなものが必要になる。●画像もセンサ
利便性と引き換えに
センサを導入する目的は確かに監視することにある。 しかしながら、個別の行動を監視されると感じるようでは、 利用者にとってもあまり好ましくない。 現状程度の匿名性が確保されないと、 データを提供する側になる利用者からの反発も考えられる。 ただし、ユビキタス環境におけるユーザの利便性は、 センサなしには成り立たない機能であることも確かだ。 また、健康状態を管理するために、 体内に埋め込まれるセンサが出現する日も近いだろう。 便利さと引き換えに監視社会に向かうことに危機感を感じた場合には、 自動車の速度違反自動取締機を発見する機器があるように、 特定のセンサを発見あるいは計測されることを無効にする技術が必要かもしれない。