生鮮食品にICタグをつけた実証実験など、ここ数年各所でICタグの活用が話題になっている。 ICタグとは、超小型のIC(集積回路)チップと、無線通信用アンテナを組み合わせたタグで 商品固有の情報を記録・参照できる。 JRのSuicaや会社の入退出カードなどはカード型の代表例であるが タグ型はアンテナを含め本の背表紙の1/3程度の大きさである。 ICタグはどんな応用が考えられ、どんな課題があるのか?
ICタグは何に使えるの?
無線式のICタグは、RFID(Radio Frequency Identification)(タグ)と呼ばれている。 RFID の主な特性は 2 つある。 1 つは認識対象物に接触することなく(遠くのものも)素早く認証が行える点、 もう 1 つは複数のものを同時に認証できる点である。 RFIDの活用として、以下のようなことが考えられている。
実用化 | 市場 | サービス内容 |
実用 | 大 | 倉庫の在庫管理 |
実証 | 大 | 食品の生産地からのトレーサビリティ(生産履歴の追跡確認)、加工後の販売価格までを一元管理 |
実証 | 大 | アパレル製品などの製造から販売まで、品質、流通在庫、店舗別の売れ筋、価格変更履歴等を管理 |
実証 | 大 | 家電では、製造からリサイクルまでの追跡管理により循環型社会構築を支援 |
実証 | 中 | 図書館の棚一括での蔵書点検や盗難防止 |
実証 | 中 | 空港手荷物につけセキュリティや誤配送の防止など |
実証 | 中 | 病院で患者がリング型のタグを付け医療ミスを防止 |
実証 | 小 | プール・温浴施設などでの財布代わり |
実証 | 小 | 街頭広告ディスプレーにICタグ会員証をかざし、クーポンなどのサービス情報を携帯メールに受信 |
実証 | 小 | 幼稚園児の衣服にICタグをつけ園内にカメラを設置し、保護者がPCから子供の様子が分かるようにする |
構想 | 小 | 野生動物の調査や家畜の管理など(BSEや鳥インフルエンザの調査なども視野) |
タグの種類と価格
RFIDにはおもに3つの周波数帯がある。 13.56MHz、2.45GHz、950〜956MHz(UHF帯)だ。 このうちで通信距離が3〜4mと最も長く、通信性能、通信品質ともに優れているのが、 これまで日本では使用が認められていなかったUHF帯域である。 現在主流の13.56MHzでは通信距離が数10cmと短いため、タグをリーダの近くにかざす必要があるが、 UHF帯域ならコンテナ内の荷物に添付されたタグを外部から一度に読み取れるなど、 適用範囲が格段と広がる。 総務省では、RFIDはUHF帯域製品の展開が本格化する2007年ごろから一気に普及すると見ている。
RFID の普及において、最も話題なる課題はICタグ1個あたりのコストである。 現在のICタグは標準で数百円程度、最も安いもので10 円前後だが、 普及のためには最低でも1個あたり10 円を下回る必要があるとされている。 大根にICタグをつけ、流通やレジ清算の効率化やネット経由での生産者の参照などができるといっても、 「大根とICタグのどちらが高いか」を考えると容易に実現できないのは明白である。 ICタグ普及を目指す総務省は、小売業で使うタグの価格は1個5円程度、 野菜など低価格の商品は1円以下が適当と見ている。
標準化とプライバシー保護が課題
RFID は、将来の社会インフラとして期待されているが、 ICチップの種類、通信プロトコル、IC チップに記憶するデータ体系、 データの利用方法等について十分な標準化が行われてはいない。 ICタグ全般について、国内で活動しているICタグ関連の団体は2つある。 1つは、世界で約100社が参加している 米オートIDセンター の日本支部。 代表は慶応大学の村井純教授で、低コストを考え、読み取り専用のICタグの活用を計画している。 もう一つは、国内企業が中心となって開設した ユビキタスIDセンター ユビキタスIDセンター 。 代表は東京大学の坂村健教授で、読み書きも可能なより高度なICタグの開発を計画している。 両者は、実証実験などで協力していくとのこと。 タグ1個あたりの価格に加え、業界標準ができ、将来にわたり継続して利用できることが ICタグ普及の第一歩である。
ICタグの実証実験が行われるたびに、消費者団体は、気づかれないうちに購入した商品の履歴などの 個人情報が読み取られる可能性があるのではないかというクレームをつけている。 書籍のICタグづけでは、 書店店頭での「万引き防止」だけでなく、万引きされた書物が古本屋に持ち込まれた際に も水際管理できるように、すべての書籍を常にトラッキング可能とするという 議論が進んでいるというが、 プライバシー保護の観点からやや行き過ぎに思われる。 ICタグ自体に個人情報が書き込まれることはないが、 製品情報と会員情報などの個人情報をマッチングし、 様々な個人向けサービスが提供されることが想定される。 ここで、一度個人情報が漏洩すると、 突然知らない店からダイレクトメールが来たり、 個人の製品購入履歴がわかったりといった危険性が考えられる。 これに関し、総務省・経済産業省「電子タグに関するプライバシー保護ガイドライン」 では、 ICタグの格納情報・読み取る情報は何とその利用方法・目的はなどを公開すること、 ICタグが装着してある事実をラベルなどで明示すること、無線ICタグの取り外しや無効化を可能にすること などを定めているが、悪意の利用に十分とはいえない。
ICタグは、製品や図書館の管理といったバックヤードで普及の兆しがある。 一方、一般商品への普及には消費者の理解が得られることが重要であり、 タグに格納された製品固有情報と個人情報をマッチングすることの制限などの 運用規約とともに、タグのアクセス制限等の技術面の開発も必要である。 これらの充実はまだこれからなのである。
本文中のリンク・関連リンク:
- 総務省「ユビキタスネットワーク時代における電子タグの高度利活用に関する調査研究会」中間報告
- 米オートIDセンター
- ユビキタスIDセンター
- 総務省・経済産業省「電子タグに関するプライバシー保護ガイドライン」
- EPCグローバル,“Guidelines on EPC for Consumer Products” :オートIDセンターは、米MIT内に99年設立されたが、 現在は国際的な統一商品コードの管理機関国際EAN協会と、 米国の流通コード機関であるEPC(Electronic Product Code)global に標準化活動を移管、従来の組織はオートIDラボとして研究開発に専念している。
- トレーサビリティコンセプト調査研究報告書(電子商取引推進協議会)