電子書籍市場の育成を望む!

今年4月、 ソニー松下電器 から電子書籍端末が発売された。 大きな書店にはデモ端末が置かれているところこもある。 電子書籍構想は数年前からあったが、ビジネスとして成功しないまま 何回目かの波が来たという感がある。 電子書籍には、以前から期待していた。 というのは筆者は、ハードカバーの本を買うことが多いが、 いつも本棚から溢れ、 古本屋に持っていってもお金にならず、捨てるには忍びず、という状況が続いているからだ。 日本の住宅事情を考えても、電子書籍の 普及を一刻も早く望みたいが、実態と展望はどうだろうか?

電子書籍端末の登場

10年以上前、CD-ROMの電子ブックと銘打った端末が流行った時期があった。 これは、主に辞書をターゲットにしていたが、 現在、数十冊の辞書をROMに入れた電子辞書としてブームの再来を迎えている。 一方、一般書籍の電子媒体は、 シャープの携帯端末「ザウルス」用の文庫 や、PCで読む電子書籍が 細々と存続してきたというのが実態である。

これが、ソニーと松下から電子書籍端末が発売され、状況が少し変化してきた。 ソニーはテキストで単ページ、松下はイメージで見開きである。 ソニーの端末は、米E Ink社の電子ペーパーを使い、電源Offでも表示を続ける。 これらは、メモリカード型端末の第一弾だけに、 価格、重さ、表示レスポンスなどまだまだ改善の余地があるが、 今後の期待感を駆り立てるものである。


端末製品名 SONY LIBRIE 松下電器 ΣBook
ディスプレイ 単ページ6インチ
(800×600ドット)約170dpi
見開き7.2インチ
(1024×768ドット)180dpi
本体質量 190g 520g
記憶メディア メモリースティック SDカード
流通形態 貸本 販売/貸本
基本料 210円/月 無し
利用料/冊 315〜525円 300〜1050円程度
専用サイト販売冊数 約800 約800
電子書籍フォーマット Broad Band e-Book SD-ePublish
使用時間 約10,000ページ 約3ヶ月(1日80ページ閲覧時)

流通方法と品揃えは?

ソニーのLIBRIEは、 TIME BOOK TOWN というインターネット上の貸本屋で本を借りることになる。 月額基本料210円+315〜525円/冊で2ヶ月間読むことができる。 所有することに慣れている消費者には、このようなスタイルに戸惑いもあると思うが いかがだろうか?せめて2回目以降のダウンロードは格安にすると いった工夫が必要だろう。貸本形式ならば、書籍より雑誌の方が向いている。 作り込んだ雑誌の製品紹介欄にWebサイトへのリンクを張る等すれば利便性は高い。 しかし、雑誌のグラビア表示には、今の端末では力不足であり、この点、 流通形態と端末仕様がややアンバランスである。

現在買える紙の本は約50万冊と言われているが、 電子書籍は、専用端末のもので800冊、 PC上で読むもので数千冊であり、紙の本に遠く及ばない。 端末の完成度よりも、この品揃えの貧弱さが最も普及を妨げる要因ではなかろうか? PC上の電子書籍販売サイトは、古書や絶版本や章単位の切り売りなどの売り方で 独自の特色を出しており、この点では成功しているといえる。

ところで、電子書籍には、単に紙を電子化した以上の価値はあるのだろうか? 辞書系の本、例えば 「医者からもらった薬がわかる本」 「家庭の医学」 などは、 検索が目的なので、紙の本より、電子書籍の方が利便性が高い。 ネットでコンテンツを追加できれば、常に最新の情報にしておくことができる。 特定語で検索するような技術書も同様である。 また、電子書籍ならではコンテンツとして、 例えば、ゴルフレッスン場面の動画表示や、英語フレーズの発音なども考えられよう。

市場の育成とコンテンツの可能性追求を

書籍の電子化には、様々な課題がある。 電子化のコスト、著作権保護に関する不安、 紙の製本をイメージして執筆している作家の説得、 中抜きにされるかもしれない販売店の問題などである。 しかし、これらは、いずれは解決されるべき問題である。 日本での電子書籍は、今年ようやくスタートラインに立ったところであり、 今後の進展に期待したい。

普及に向けて何が必要だろうか? 端末や流通形態に個性があってもよいとは思うが、 まず、できるだけ統一されたフォーマット、 統一された流通機構を創設し、市場を育てていく必要がある。 このとき、PCを介さないと使えないのでは、紙の本に比べ大きく利便性が劣るので、 端末単体で通信機能を持つか、bluetoothなどで書店のダウンロード端末と 連携する等の機能も必要であろう。 流通形態としては、既に多数のユーザを獲得している amazon.co.jpのような オンライン書店との提携が必須であろう。 最低限、一般の大きな書店に売っているくらいの品揃えは確保していただきたい。 過去の膨大な本を電子化してコスト的に見合うかという話はあるかもしれないが、 少なくとも新刊の単行本全てを電子化するような意気込みがほしいところだ。

まだまだメーカ、出版社、書店の足並みが揃っていない現状では普及はおぼつかない。 もう少し計画的に市場を育てていく必要があろう。 また、流通機構を整える一方で、動画や音声を含む新たな書籍を作り込み、 新しい書籍の形態を世間にアピールしていくことも必要であろう。