ブレークするか! 音楽配信サービス

Napster裁判、違法mp3をダウンロードした個人に対する訴訟、CCCD(コピーコントロールCD)の導入と、IT技術(およびそれを駆使するユーザ)とコンテンツホルダーの間でのデジタルコンテンツをめぐる衝突は時には社会問題にも発展するほど激しいものであったし、これからも当分は続くであろう。しかし、最近になって音楽配信サービスにおいて新たな動きがあり、デジタルコンテンツの取り扱いが変わってくるかもしれない。

アメリカでは・・・

デジタルコンテンツをめぐる争いが最も激化していたアメリカにおいて、Appleは有料音楽配信サイトiTunes Music Store(iTMS)においてサービス開始から1年間で7000万曲の売上を達成し、サクセスストーリーになっている。有料音楽配信サービスに転進したNapsterも順調に売上を伸ばしているようである。SonyもConnectを5/4に立ち上げ、iTMS、Napsterに続こうとしている。それでも現在の音楽配信サービスの売上は音楽ビジネス全体の1%程度と言われており、ビジネスとして一気にブレークしそうである。

iTMSでは1曲単位でのダウンロード販売方式をとっており、1曲99セントと言う戦略的な価格設定と個人使用権を認めた独自のDRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)と相まって、圧倒的なシェアを確保している。5台までのパソコンでの再生、CD-Rへの保存、iPodへの転送を認め、ユーザビリティをある程度確保している。Napsterでは同様のユーザビリティに加え、10ドルの月間使用料で65,000曲以上を無制限で再生できるsubscriberサービスも取り扱っている。

アメリカでは特に違法mp3の氾濫が激しく、採算ラインギリギリの価格設定、大幅に譲歩した利用制限で新世代の「合法」音楽ダウンロードサービスにユーザを誘導しようと言う捨て身の戦略であろうと感じられる。このビジネスモデルが持続可能であるかはもう少し様子を見る必要があるが、ネット上のデジタルコンテンツの取り扱いに関するある一定の「妥協点」を見出したと言える。

一方、日本では・・・

アメリカでのiTMSの成功に続けと、わが国においても音楽配信サービスが多数立ち上がろうとしている。5/20にエニーミュージックExcite Music Store、6/7にOCN Music Storeが相次いでサービスを開始した/する予定である。日本にもアメリカのような音楽配信旋風が吹き荒れるか・・・ と、早合点しがちだ、日本におけるサービスを詳細に見ると、アメリカのサービスとは微妙に異なることが分かる。

実は最近立ち上がった/立ち上がろうとしているサービスも、既存のサービス(bitmusicavex networkなど)と大差ないのである。そのどれもがSDMIに拘束され、ダウンロードしたパソコンのみでしか再生できなかったり、CD-R保存禁止(限定的なバックアップのみ可能)、ポータブルプレーヤへの転送に制限が課されていて、ユーザビリティは一向に向上していない。

価格設定もアメリカとは大きな差がある。日本のサービスでは大半が1曲\200弱〜\300強(1アルバム\1000〜\3000程度)とアメリカの相場の2倍以上である。その上、事実上の会員費であるサービス利用料(月額\300程度)が必要なサイトもあり、月額\1000程度で大量の音楽が聴き放題になるアメリカとは雲泥の差がある。

またしてもユーザ不在・・・

アメリカではコンテンツホルダーと利用者が互いに妥協点を模索しつつ、ビジネスとしても持続可能な形態に進もうと努力しているのに対して、日本では旧態依然とした、ユーザビリティを無視したDRMの堅持と普及を阻む価格設定がなされているのである。利用者に譲歩してまでも音楽配信ビジネスを立ち上げようという意識が低いのか、DRMを緩めることによるマイナス効果を必要以上に恐れているのかは定かではない。

いずれにしろ、わが国においてはまだまだ利用者のほうが立場が弱いのである。とは言え、現在のサービスレベルでは国内の音楽配信はあまりにも魅力に欠けている。やはり、利用者主導で利用制限がきつくて価格の高いサイトを蹴落とし、サイト間のサービスレベル向上合戦に持ち込むべきである。利用者、コンテンツホルダー、システムプロバイダー共にハッピーになれるにはそれしかない。