ITが支える内視鏡手術

最近、内視鏡手術用の大規模なトレーニングセンターを開設するという発表が相次いだ。 発表したのは、内視鏡メーカー最大手のオリンパスと、内視鏡手術を積極的に採用している九州大学である。

少々前に内視鏡手術における事故が問題となったことも契機のひとつだろう。 事故は医師が習熟していなかったために起きたのだが、実は数年前からこのような事故は指摘されていた。 大きく騒がれたのは (悪質だったということもあるが)、 内視鏡手術が普及してきた証でもある。

楽な患者、つらい術者

内視鏡手術とは、体内に細長い筒を何本も差し込み、 筒の先端に取り付けた小さなメスや鉗子で手術を行う最先端の手術である。 筒の先端には超小型カメラがついており、 医師はモニター画像を頼りに手元の多数のマジックハンドを使って遠隔操作する。 切開範囲が小さいため患者への負担が少ない。 入院期間が短くできるため、近年注目されている手術法である。

一方、医師には非常に高いスキルが要求される。 数10cmの長さのマジックハンドを使って数mm〜数cmの患部を手術するのである。 その難しさは「1mの箸で靴ひもを結ぶようなもの」とも言われている。 このため内視鏡手術にはトレーニングが欠かせないが、 開腹手術と異なり患部が直接見えないため、見よう見まねで覚えることが難しい。 これまでは模型や動物を用いた模擬手術が行われてきた。 しかし、模型にはリアルさに欠けるという問題が、動物実験は動物愛護という面で問題があった。

訓練シミュレータと手術支援システムで医師をサポート

そこで登場したのが内視鏡シミュレータである。 3次元コンピュータグラフィック(CG)で作成されたリアルな体内映像を見ながら、実際の手術と同様にメスを入れることができる。 ポリープを取り除いたり、その触感を医師に伝えたりすることもできる。 さらに、リアルタイムに体内全体を俯瞰したり、患部や大動脈を強調表示することも可能である。 これは本来見ることはできないものであり、CGならではのメリットである。

手術自体を支援するシステムも進んできた。手術ナビゲータや手術支援ロボットである。

手術ナビゲータは、手術前に撮影したCTなどの情報をCGを利用して実際の画像に重ね合わせたり、患部までの距離や方向を表示したりできる。 呼吸によって臓器が変形するため、一般外科用には実用化されていないが、脳神経外科用などでは実用化されている。

手術支援ロボット「da Vinci」では、医師はコンピュータの前に座り、 モニタに写し出された患者の3次元映像を覗き込んで手術する。 映像は実際の数倍に拡大され、 遠隔ハンドの動きは逆に数分の一に縮小されるので、 細かい手術も開腹手術と同じような感覚で行えるのが特長である。 体内組織を傷付けてしまう細かな手の震えも自動的に補正してくれる機能もある。

期待がかかるカプセル型内視鏡

今後、機器のコストが下がるにつれ、患者の負担が軽い内視鏡手術はますます普及するだろう。 しかし、それでも皮膚にメスを入れることは変わらない。 もっと身体に優しい手術はないだろうか。

もう一息、という製品なら出てきている。 カプセル型の内視鏡、M2ANORIKA である。 直径約10mm、長さ約25mmのカプセルに超小型カメラと照明を搭載している。 これを口から飲み込み、胃や腸を流れて行く間に患部を撮影し、 無線でモニターに伝送する。 NORIKAは電力を無線で伝送し、危険な電池も不要となった。

もっとも、現在のところカプセル型内視鏡は患部を撮影し診察するだけの機能しかない。 しかし、将来的には、薬剤や手術器具を搭載した内視鏡カプセルが登場するだろう。 それは自走して患部に到達し、体内をモニタリングしながら遠隔手術が可能になる超小型ロボットである。

ロボットというと、AIBOやASIMOのようなペット型、人間型のエンターテイメントロボットばかりが注目されがちである。 しかし、先に実用化されて私たちの役に立つのは、手術支援ロボットのようなマイクロロボットかもしれない。