自分探しの旅だ。『「学ぶ」ということの意味』(岩波書店)の中で、著者佐伯胖氏が熱く主張する。
「自分」が成長し、発展し、育って行くべき自分が何であるかを探し、自分自身を転身させていこうとしている。 これが本当の自分かと思えるところに行き着けば、そこでさらに先が見えてきて、 さらに進んだ「もっと本当の自分」探しがはじまる。最近インストラクショナルデザインという言葉があちこちで聞かれるようになった。 教え方の設計、つまり効率的、効果的な教育コース、教育プロジェクトを開発するための手法のことだ。 e-Learning コンテンツの多くは教材のデジタル化の域を出ないものが多いように思う。 特に、より実践的な知識ノウハウについての個人学習は困難だ。
たとえば、茶道を思う。千利休以降現在に至るまで、三つの千家が茶の湯の教本づくりを禁止し続けている理由は何か。 もちろん、家元の身(制度)を守る一つの方法だったのだと思う。 師がやってみせる作法をとにかくも繰り返していく。あとから意味に気付き、納得し、心構えとなって応用範囲を 広げていく。 伝承教育の一つのスタイルがここにある。
人が自ら学ばなければならないものに気が付く瞬間はどのような時か。これにいま最も興味がある。 そして、気付くスピードや深度は人それぞれだ。 体験・実践環境が学び手の周囲に見つかるかどうか。これが結構重要だと思う。
「くらしの中のサインをデザインしよう!」
というプロジェクトをいまから1年ほど前に行った。
「サインとは何か?」から「学校のサインの企画・制作・設置」までを 学校、地域社会の中で体験しながら学習するというものだ。 この授業では現役で活躍するプロフェッショナルの3名に先生役になって頂き、技や知識を語ってもらった。
まず、事前学習として、身近なくらしの中のサインを集める。 そして、何となくわかったような、わからないようなところでグラフィックデザイナーが登場。一体この学習のどこにITが使われているというのか。そう思われたに違いない。 身近なサインを集める事前学習ではデジタルカメラを使っているが、それ以外は 授業ではITが前に立つことはない。 ここでは、子どもたち自身で使う学習支援ポータルをどう作ればいいのかを考えた。 当時その答えは、背景知識をまとめた「カード」と呼ばれるデータ検索と、 自分たちの考えや感想をまとめる「ノート」を用意することであった。 カードには役に立ったか、そうでなかったが投票できる機能を付けて、 その情報を登録した先生たちが後で集計結果を見られるようにした。 ノートはクラス全員で見せ合える部分を作った。サインとは何か、学校のサイン探し、サインの実例画像を用いたサインの記号化や表現方法の重要性、 文化やメッセージ性の違いなどについて授業を行う。
次に、建築家より「公共空間のサイン」について、地域教育施設を活用したサイン探検活動を行い、 公共空間のサイン設計、バリアフリーなどについて教えてもらう。
最後に、「サインの制作現場から」というテーマで出版印刷産業の講師により、 サインが実際に制作される過程(打合せ、材料、加工、制作、施工)をビデオを交えて 教えてもらう。
これらプロのノウハウを実践する授業として「学校のサイン制作・設置」を行う。 まとめとして、自分たちが作ったサインが目的にあったものであったかを振り返り、 サインが人と人との関係を大切にするコミュニケーションの手段であることを学ぶ。
問い方を学ぶ
と書いて学問という。ナゼという疑問を抱き探求していく心を保ち、 仮説を立てながら経験し検証をしていく心を磨いていく。 これまでのいわゆるIT授業ではココが足りない。 自分が理解(appreciate)したことを表現し共有することにITの可能性を大きく感じる。 そんな学びのスタイルがITによって少しでもサポートできればと思い、試行錯誤の日々である。
参照