「絶対音感」という本が話題になったことがある。 音を瞬時に識別することができ、 楽譜を見ずに楽器が弾けたり楽譜を書いたりすることができる能力である。 こうした能力が先天的なものは後天的なものは別にして、 筆者はこのような能力とは全くの無縁であったので、 実に羨ましいと感じた記憶がある。
「絶対音感」が話題になったためか、その後いろいろな 「絶対○○感」が (半ば冗談めいて) 登場した。 「絶対○○感」というのが単純に○○にセンスがある、 という程度の意味であれば、 実のところ ○○は何でもよいわけであるが、 人によって能力やセンスに大きな差がある場合、 「あの人は絶対○○感があるから」というのは、 はっきり明文化できない能力を指し示すために説得力があるということなのだろう。
絶対リンク感
そういうわけでやや得体のしれない能力を「絶対○○感」 と呼んでしまうことに筆者も便乗すると、かねてから 「絶対リンク感」というのがあるのではないかと思っていた。 今、上司(あるいは顧客)からある課題についてインターネットで 調べてくれと課題を与えられたとしよう。 これに対して、アッという間に実に的を得たページを捜し出してくる人がいる。 一方、何時間かけても平凡なページしか捜し出せない人もいる。 前者のタイプは、必ずしも検索エンジンを使うこともなく、 手がかりになるサイトから、 適切なページへのリンクを目ざとくかつ素早く辿って行くことができる。 まるで頭の中までハイパーリンク構造になっているのではないかと思われるほどの手際の良さである。これは「絶対リンク感」のある人である。
これに対して後者のタイプは、検索エンジンしか使わない。 そこに適当と思われるキーワードを打ち込み、 膨大な検索結果をこれでもないあれでもない、と頭から網羅的に見ているだけ。 所望する結果がないとまたキーワードを変えて検索する。 「あ、そういえばこういう情報はどこかにあったはず」とは思うものの、 二度とそのページを開くことができなかったり、 さっきまで見ていたページが行方不明になってしまったりする。 完全に情報の洪水に埋もれてしまっているタイプだ。 筆者自身もどちらかというと後者のタイプに近い。
こういうのはもともとどのくらいの知識があるのかとか、 情報をきちんと整理しているかどうかという問題であって、 センスとは関係ないのでは ? という意見もありそうである。 確かにその通りであるが、 インターネット上の知識やリンク情報といったものは、動的にどんどん変わっていくし、 こうすればうまく整理できますというようなセオリーのないものである。 だから、 こういう整理がうまくできる能力も含めて「絶対リンク感」と呼んでみよう。
「絶対リンク感」を養うには
いうまでもなく、インターネットで調べ物をする業務においては、 いかに短時間で検索の効率を向上させるかが、 オフィスワークにおける一つの重要なスキルになっている。 最近は、いわゆる検索ノウハウ本も数多く出版されている。 ところが、一般のノウハウ本(真面目に読んだことはなく立ち読み程度だが) は、主に初心者を対象にしたもので、検索サイトの選び方や 検索キーの指定の仕方、候補の絞り込み方法程度の内容にとどまっているものが多い。 これらは当然検索をする上ではマスターしておかなければならないことではあるが、 前述したように検索式の入れ方を工夫するだけでは、 (多少は洪水の量は減るものの)「絶対リンク感」 をもったエキスパートになることはできない。 どのリンクをたどっていけば良いかを本能的に察知する能力が必要なのである。
では「絶対リンク感」を養うのはどうしたら良いだろうか ? 基本的には WEB ページの全体を視覚的にかつロジカルに把握できる能力を養うことだろうと思う。すべてのページがユーザビリティの観点から優れているわけではない。 WEB ページの製作者やWEB ページの目的を察知し、このリンクにはこの情報が あるに違いないという感覚である。 このためには、あえて検索エンジンを使わないようにしてみる、 という方法もありえそうだ。 検索エンジンは関連するページをリストアップしてくれるが、 常に検索エンジンを使用しているとウェブサイトを構造的に見るのではなく、 断片のみしか見ない癖がついてしまう。 全体の構成の中でその情報がどのように位置付けられてるのか、 そういった感覚をみがく (慣れる) 必要がある。
情報収集スキルの共有のために
さて、この「絶対○○感」に関する議論は、 誰にはあるとか誰にはないという話に終始してしまうと、
不毛なものになりやすいので注意が必要だ。
「どうしてあなたにはこの半音の違いがわからないの?」
「僕にはわからないね」
これで終りである。
そうではなく、そもそも「絶対リンク感」というものが存在するのかどうか、 もし存在するとしたらそれはいかなる能力なのか、 どうすればそれを高めることができるのか、 そもそも「絶対リンク感」ではなく、「絶対情報感」 (価値ある情報を本能的に察知する能力) の方が重要なのではないか、 そういったことを考えてみることが重要であろう。 仕事を進める上でインターネットからの情報収集というのはいうまでもなく重要なスキルであるにも関わらず、 他人が普段どのように情報を収集し活用しているのか、 あまり知らないのではないだろうか ? 「企業内での業務遂行上のノウハウ共有」という観点で考えれば、 まさに文書化されていないノウハウとか習得の方法があるのではなかろうか ? そんなことも考えつつ、「絶対リンク感」などというものを仮定してみたわけである。
本文中のリンク・関連リンク:
- 「絶対音感」最相 葉月 (著)
- Google Hacks
Google に関する検索術や API の情報。 上の本文とやや矛盾するようであるが、 検索エンジン利用の効率性を高めるのには役に立つ。 - 「絶対リンク感」を高めることと検索機能のシステム的な高度化は表裏の関係である。
以下は、既存の検索エンジンを使用する上で精度を向上させるための試みの例。
- TG GoogleBrowser は、 url をキーに検索を行い、関連する重要なリンク先(サイト情報)を表示する。
- kartoo.comは 与えられたキーワードに関連のあるサイトを視覚的に表示する。
- InfoLead を用いた3D検索
- 「絶対○○感」いろいろ