地上デジタル放送はどこへ向かうのか?

来月(2003.12)より、関東・中京・近畿の三大都市圏において 地上テレビ放送 が開始される。といっても視聴可能圏は、2003,2004,2005年と徐々に拡大されるので、 例えば関東全域で視聴できるのは2005年末以降になる。 店頭では既に高価格帯製品に地上デジタルチューナ搭載をうたったテレビが登場している。 地上デジタル放送は今までのテレビと何が違うのか? 2年前、1000日で1000万世帯を掲げたが、実際はその1/4以下の不振に終わったBSデジタル放送 の二の舞にならないのか?

ショッピングとモバイルが有望か

デジタル放送の特色は、高画質・高音質、多チャンネル化、双方向化にある。 「今の5倍の画素数で9:16の画面(現行は3:4」)、 「料理番組でのレシピなど画面に連動したデータ」、 「ニュースや天気予報などの文字情報をいつでも呼び出せる」、 「休日・夜間診療所の案内など地域に根ざした情報が得られる」、 「クイズ番組で視聴者も参加できる」、「アンケートをその場で実施できる」 などがこれらに相当する。 高齢者や障害者向けのサービスとして セリフの速度や文字の大きさが自由に調整できるといったサービスも可能となる。 しかし、これらはあくまで今までのテレビに少し機能を付加しただけで これらがすごくインパクトのあるものにはなりえない。 商業的側面で多少インパクトがあるとすれば 「ドラマで女優が持っているバッグをその場で注文できる」 等の今でもさかんなテレビショッピングの利便性向上であろう。

地上デジタル放送のもう一つのサービスとして、安定したモバイル通信があげられる。 ノイズに強いデジタル信号は、携帯電話や車載テレビ等のモバイル通信に適しており 通勤電車やタクシーの中でテレビがみれるという環境になっていくだろう。 携帯に次に必要なサービスはテレビというアンケート結果もある。 モバイル向け放送の開始は2005年といわれている。

課題もある

これまで地上デジタル放送のメリットをあげたが、普及に反対する意見も多い。 放送局側の巨額の設備投資及びユーザも少なからず初期投資が必要な割りに ニーズが明確でないというのが反対派の主な意見である。 つまり「きれいで、横長で、音がいいテレビになる」というだけで、 高価なテレビに買い換えるニーズはあまりないのではないかという意見である。

地上デジタル放送では、現行のVHF帯をUHF帯に移す計画だが、 一部の地域では既存のアナログUHF局の電波が密集しているため混信が起こりやすく、 十分な周波数が空いていない。現在のアナログ放送局の周波数を変更して、 デジタル放送のための周波数を空けること(アナアナ変換)を計画している。 総務省、NHK、民放で組織する「全国地上デジタル放送推進協議会」が、 今年7月に発表したアナアナ変換費の修正見積金額は 改正電波法成立時の同経費見積りに対し大幅増の1800億円となった。

ブロードバンドが比較的安価に提供されるようになった現在、 地上デジタル放送よりブロードバンドによるテレビ放送の提供の方が コストが安いという意見もある。これは送信側のコストで、 ユーザからみれば無料ならば放送の方が有利であるが。 しかし、双方向の上り回線のための通信コストもあるのでこの点は一概にはいえない。 また、BSデジタル当時よりいわれていた放送コンテンツの仕様が インターネットと親和性をとりにくいという話もある。 これについては、メーカ各社が デジタルテレビ情報化研究会 で取り組み始めたところである。

緩やかに浸透する

当初高価なデジタルテレビ(またはチューナ)は、 その必然性がわかりにくく、周知にも課題があるため 一般家庭への普及速度は価格が今のアナログテレビくらいになるまでは低位すると考えられる。 2011年にはアナログ放送の終了の予定というが、 ここ数年でアナログテレビの製造が中止されるわけではないので このスケジュールの実現は難しいと思われる。 しかし、新製品から地上デジタルチューナを備えることになるので 緩やかに地上デジタルテレビが浸透していくことになるのだろう。

英国の有料地上デジタル放送局は経営破綻しその後国営放送のBBCが無料の放送を行っている。 その後、英国を含む欧州ではセットトップボックスを無料配布する等し、 地上デジタル放送は息を吹き返しつつあるという。 課題もあるが、この世界的な流れの中に日本も身を任せているというのが現状である。 次のW杯サッカーや双方向番組などのコンテンツ面からの期待より、 端末の低価格化が普及スピードの鍵となろう。 コンテンツ面では、当初は、上り線接続が必要な双方向サービスよりハイビジョンや データ放送が主流となるが、エンタテイメント性やビジネスチャンスという意味では、 インターネットより影響力の大きいデジタルテレビの双方向サービスに期待される。