入院患者にITケアを

携帯電話がメガピクセルになり、ADSL接続が普通のことになり、ネットワーク情報家電が勢いを増していて、我々の生活にITがかなり浸透してきたと感じる今日この頃。でも、つい先日、ITとは隔離された空間に幽閉され、脱IT生活を1週間味わって感じたことを今回は述べよう。

ITは治療の一貫

その、脱IT空間とは病室のことである。先日1週間ほど入院したのだが、病室において有線、無線を問わず、一切インターネットに接続できない環境に身を投じたのだった。本来入院とは、検査や手術などの治療行為を行う上で必要になる処置なのだが、療養と言う側面もあり、日常の喧騒から離れて体と心を休めることも意図している。

しかし、普段から携帯電話を駆使し、ブロードバンド常時接続環境にいる人間にとって、脱IT環境は返って閉塞感を強く感じるのである。隔離されることで逆に不安感を覚えるのである。新聞や雑誌とは違った情報がネットには存在している。それらの情報は、残念ながら病院の売店では買うことができない。また、親しい人との接触が「薬」になる人もいる。私の隣の患者さんは特に人恋しいらしく、病院スタッフの目を盗んでは携帯電話で話したり、メールの交換を行っていた。長時間のベッド上での生活のストレスは、メールの交換などのコミュニケーションで癒されることがある。個人的にはお見舞いに来て頂くよりもメールを貰うほうが気が楽だし、訪れるほうも楽だろう。また、機器の操作を行うことによるリハビリ効果もあるようだ。このように、ITは治療の一貫(ITケア)として捉えることもできる。

病室向けのIT機器

病室となると、IT機器の導入に様々な制限が加えられる。大きな音を立てるものや、発熱の多いものはだめである。消費電力が大きい機器も、医療機器の電圧・電流が不安定になるのでだめだろう。ある程度の耐水性、耐衝撃性も求められる。多少指先が不自由でも使えるようになっているべきであろう。複雑なネットワーク機器は、専任のネットワーク技術者が必要なので、運用コストの低いシステムでないとだめだろう。

多くの制約がある中、安価に提供できないといけない病室向けIT機器なので、実現は困難であるが、すでに稼動しているシステムもある。無線LANに自由にPCを接続できるサービスを提供している病院や、ベッドサイドの液晶端末からWebやメールが使える環境が整備されている病棟もある。また、ソニーのエアボードのような端末を使ってWeb、メールを始め、電子カルテの閲覧、院内案内などの病院内サービスと連携するものもあるようだ。

まずは無線LANから

病院内ではもちろん携帯電話の使用は禁止されているが、これからますますこっそり使う人は増えるであろう。それに伴い、医療事故の危険性は増すであろうし、病院内での規制強化など、不毛ないたちごっこが繰り広げられるかもしれない。病院経営の改善が叫ばれている昨今、入院患者へのIT投資など後回しなのであろうが、入院患者のQOL(Quality Of Life)向上とITケアのためにぜひとも病室向けのIT機器の導入を促したいものだ。

そこで提案なのだが、ベッドサイド端末を一斉に配備するのはあまりにもコストがかかるので、せめて無線LANの導入とPCの持込を許可してもらえないだろうか。大手ホテルのビジネスセンターのようにPCを貸し出してもいいと思う。言うならば、病室ホットスポットである。もう一つ付け加えるとすれば、会社からのメールをフィルタリングしてくれれば病気の治りは早くなると思うのだが。

無線LANで代表的なIEEE 802.11bが使う2.4GHz帯は医療機器のノイズのはけ口に割り当てられている周波数であり、無線LANは電波出力も(PHSよりも)弱く、医療機器に悪影響を及ぼす心配は無いと考えられている。総務省からは無線LANの運用指針が提示されている。