オープンソース政策討論会〜政府の想いは届いたか

さる6月25日、経済産業省のIT政策担当者とオープンソース・コミュニティとの間で、 オープンソース政策についての討論会が開催された。
筆者も「オープンソースと政府」というサイトの管理者として呼ばれ、議論に参加させて頂いた。

議論は発散し、収集がつかなかった

結論から言うと、今回の討論会は出席者も多く議論が発散してしまい、
各自が言いたいことを主張するだけの討論とは言えないものであった。 当初用意された議論のテーマは、
オープンソース技術者の人材育成、 オープンソース振興のための環境整備、 オープンソース利用拡大のための市場整備、
オープンソースと知的所有権 等であった。 しかし、途中からそもそもオープンソースへの支援が必要なのか、
政府が進めるプロパテント政策自体を見直すことこそが最大のオープンソース支援なのではないか、
というスコープの違う議論も始まり収集がつかないまま時間切れになってしまったのは残念であった。 議論の詳しい内容は、
詳しい内容は当日の発言要旨メモを参照して頂きたい。

討論会を企画した政府のオープンソースへの想いとは

この討論会が実現した背景には、政府のオープンソースへの想いがある。 その想いとは次のようなものである。
まず大前提として、ソフトウェア産業が輸出産業になり得ていないという実態がある。
現在、OSやミドルウェア、データベースなど基本となるソフトウェアのほとんどが海外製品に席巻されている。
この輸出入のアンバランスをなんとかしたいというのが政府の願いだ。
そのために第5世代コンピュータ計画やIPAによる各種の支援事業などいろいろ手を尽くしては来たが、
十分な成果が得られているとは言難い。

そこで、日の丸ソフトウェアの夢は一旦忘れ、 オープンソースというグローバルなソフトウェアに注目した。
オープンソースを使えば、輸入が減る分、少なくとも貿易収支は改善する。 さらにグローバルなオープンソースを基にすれば、
世界に打ってでることも可能ではないか。 特に日本まだ優位性の残っている組込みシステムでは有効ではないか、と考えたのである。

しかし、ここで政府は困った。一体どこに予算をつければよいのであろうか? これまで企業に補助金を付けるのが政府のやり方であったが、
オープンソース・コミュニティには資金を受け取る実体が無い。 未踏ソフトウェア創造事業のように開発者個人を支援すればよいのであろうか。
おそらくそれだけではIT業界全体への波及効果は足りない。
あるいは最近Linuxに注力している大手ITベンダに支援すればよいのであろうか。 それでは以前とまったく変わらないではないか。
コミュニティの技術者よ、どうすれば良いか知恵を貸して欲しい、ということである。

オープンソース・コミュニティとの討論会が実現した背景には、 以上のような政府の想いがあったのである。 議論は発散したとはいえ、
少なくとも今後のIT政策の中でなぜオープンソースを支援するのか、
どのように支援が良いか政府が真剣に模索していることは伝わったのではないかと思う。

対話に意義はあった、今後に注目

結局、今回の討論会の最大の意義は、 日本を代表するオープンソース・コミュニティのメンバが集まり、
経済産業省と直に対話したという事実にあるだろう。 出席したオープンソース技術者は、 主に各種のオープンソースソフトウェアの開発者や、
オープンソース・コミュニティーの主要メンバ達であった。 かつて政府がIT産業政策(特にソフトウェア産業政策)を考える際に、
一介のプログラマともいうべき現場のソフトウェア技術者と真剣に議論したことがあっただろうか。

以前、長野県の田中康夫知事が「新しい民主主義の考え方につながる」 とオープンソースを支持したことがある。
議論を重ねて優れたソフトウェアを開発するのがオープンソースの特長である。 IT政策が同じプロセスで作れるとまでは思わない。
しかし、大学教授や大企業の役職者など、 いわゆる有識者たちを集めた委員会で議論することだけがベストではない。
現場で一流の仕事をしている技術者が集まり、 本当に求められているものは何か、
という実利的な議論から得られる知見は他に代えがたい価値があると考える。

オープンソース・コミュニティは激しい議論の場でもある。 彼らは日本で最もIT政策議論に適した人々でもあるのだ。
これを生かさない手はない。 経済産業省によると第二回討論会も予定されていると聞く。 次回の討論会が楽しみである。