デジタル時代の著作権保護

今ではあまり話題に上らなくなったが、 Napster、Gnutellaといったファイル交換ソフトの存在は、デジタル・コンテンツの著作権保護を考える上で大きな社会的インパクトになった。保護対象の話題としては、ファイル交換ソフトによる音楽データから、デジタルテレビで放送されるコンテンツにシフトしているようだが、問題は変わっていない。

ファイル交換ソフトで浮上した著作権問題

Napster、Gnutellaといったファイル交換ソフトは、サーチ・エンジンとファイル・シェアリングの組み合わせで機能する。ユーザがこれらのソフトを起動して欲しい音楽のタイトルを入力すると同時にファイル交換ソフトを起動している他のPCをサーチし、目的の音楽を発見してダウンロードする。サーバ上に音楽ファイルを持つわけではなく、ユーザが中間媒体を経ずに世界中の個人のコンピュータと直接データ交換できる。 ファイル交換ソフトに著作権管理や課金の仕組みがないことで当初音楽業界より問題視され訴訟も起こされた。 Napster型はIndexをサーバに持つので違法とされ、会員制の有料音楽配信サイトに転身しているが、音楽業界は無料ファイル交換支援サイトに強い懸念を示している。 Gnutella型も日米などでは、一般領布の点で違法とされているが、韓国などではファイル共有のしくみ自体に違法性はないとの判決もでている。

著作権保護技術

これに対し、 レーベルゲート などの音楽配信サイト、映像配信サイトは、コンテンツを暗号化し、特定のハードでないと再生できないようにすることで不正コピーを防止する仕組みで運用されている。主に音楽関係の著作権保護技術は、 SDMIで標準化が図られている。

音楽に限らず、デジタルコンテンツの著作権保護に有望な技術として電子透かしがある。電子透かしは、デジタルコンテンツに、著作権者のID等の情報を埋め込む技術である。著者名や所有者名などを目に見えるように埋め込む場合と、文字列やIDなどを人間の目や耳で認知されない情報として埋め込む場合がある。前者の場合は誰が見ても著者がわかり、後者の場合はソフトで透かしを検出してオリジナルかどうかを判断する。埋め込んだ情報を検出したり、コンテンツに影響を与えずに取り除くことが困難であり、著作権保護の中核技術となっている。電子透かしはアクセス管理といった他の技術と合わせて不正コピー防止に使用されるが、コピー自体は許すが、著作権を主張する場合にも使用される。電子透かしを含む、著作権保護技術は、 CPTWGで標準化されている。

技術は進展しているものの課題もある。著作権管理技術は、各社・各団体が独自技術で差別化する部分が含まれており、標準化が難しい。このため、ある著作権管理技術で配信されたコンテンツが、他社の技術では利用できないといったことが生じる。現在の著作権管理技術は、コンテンツの編集を考慮していないが、本における引用文のように、或いは、絵画や音楽のインターネット上のコラボレーション創作のように、原コンテンツに追加・編集して新たな作品を創作することも考えられる。このような場合、原著作権を保護しながら、二次利用を可能にする技術も必要となろう。

弱すぎず強すぎず

このように、現在のデジタル著作権保護技術には運用面も含め課題が多い。一方、日本以外のアジアではCDやビデオの海賊版が横行しているが、アジアでブロードバンドが急速に成長している一つの要因として、このように著作権の保護が弱いからという意見もある。

また、米Apple Computer社は、同社が4月28日より開始した音楽配信サービス「 iTunes Music Store」で販売楽曲数が、サービス開始後1週間で100万曲を超えたことを発表したが、ここで使われている著作権保護技術「Fairplay」は、大手レーベルの運用より緩やかなものである。「個人利用を目的として、ダウンロードした曲の複数CDへの焼き付け、複数iPodでの再生、最高3台までのMacintoshコンピュータ上での再生、 Mac上のアプリケーションでの利用などが認められる。個人で利用することを条件に、焼き付け可能なCDの枚数、再生に利用する携帯型音楽プレーヤの数は規制を受けない。」 結局は、ユーザの利便性を損なわず、かつ著作権者の権利も損なわない、中庸な著作権保護システムが求められているのではなかろうか。