ROBODEX2003レポート:あなたはホームロボットが欲しいか

ROBODEX 2003に行ってきた。 鉄腕アトムの誕生祭が華を添える中、 相変わらずASIMOが階段を登り、AIBOが踊り、番竜はノシノシ歩く。 HRP-2は板を運び、SRD-4X IIはしなやかな動きを見せた。 どれもバージョンアップしてきたが、歩行ロボットは何度も見ておりやや食傷気味なのも事実。 今年の注目は、家電メーカが出品した実用路線のホームロボットである。 近い将来、家庭やオフィスに入るであろうロボットの姿が見えてきた。

家電操作、留守番、ヘルスケアが3大実用アプリか

東芝が2年後の製品化を目指したというホームロボット 「ApriAlpha」は、 家電製品やパソコン、テレビ等のインタフェースを担うロボットである。 ホームネットワークに繋がり、ビデオ録画予約を代行したり、 電子メールを読み上げる。 外出先からBluetooth対応冷蔵庫の中を確認したり、 ロボットのカメラで家の様子を覗くことも可能である。 オーナの顔を認識し、呼べば声に振向き近付いてくれる。

富士通・PFUの「MARON-1」は既に3月より29万8千円で限定発売を始めている。 対象は企業の評価用だけだが、今年夏には量産モデルを販売するとのこと。 やはり外出先からの遠隔監視や、 ハンズフリー電話として担当医や介護者とのコミュニケーションをターゲットにしているようだ。 三菱重工の「wakamaru」は、独り暮らし高齢者を対象に、 薬の服用時間をオーナに伝える健康管理や、 オーナとかかわりを遠隔地の家族にメールで知らせる見守り機能に重点をおいている。

東芝「ApriAlpha」 富士通・PFU「MARON-1」 三菱重工「wakamaru」

高い期待とうらはらの価格と性能

いずれのロボットも、部屋中を自律的に走り回り、オーナの顔を認識し、 音声対話あるいは外出先の携帯電話で操作可能であるという点は共通している。 家電やパソコンを操作したり、留守宅のカメラ監視は、 ホームロボットの基本機能になりそうだ。 高齢者を対象にするのは、福祉施設における大量導入の期待や、 独居両親に子供が買ってあげたいというニーズ面からの戦略だろう。 各社が共通に目指す一つの方向性が見えたと言ってよい。

サンヨー「FLATTHRU」

しかし、各メーカの担当者が悩んでいるのは、 2〜3年後に実用化できるホームロボットに本当にニーズはあるのだろうかという点である。 サンヨーは、食事搬送を想定して多少の段差でも荷台の水平を保つロボット 「FLATTHRU」をデモしていたが、 「今回はニーズ調査と割りきっています」と語っていた。 よく見ると現在のホームロボットは遠隔操作やコミュニケーションを中心に据えている。 家電操作しかり、留守番遠隔監視しかり、健康管理しかりである。 それでいて音声対話はまだまだ実用レベルに達していない。 認識率も低いし、特定の音声コマンドで指示するのが精一杯である。 これでは呼べば飛んでくる高機能リモコンとそう変わらない。 唯一特徴的な機能は遠隔監視だが、これはロボットでなくても実現できる。 価格が3万円ならこれでも充分に欲しいが、 30万円だととても買えない。

鍵となる音声対話

やはり当初は「AIBO」のようにコミュニケーションの楽しさも前面に出さないと苦しいだろう。 そしてコミュニケーションの鍵は『音声対話』である。 毎日話しかけるのが楽しみになるロボットができれば、 30万円でも売れる可能性は高い。 ビジネスデザイン研究所の「ifbot」は、 そんな音声対話の楽しさに絞りこんだロボットであった。 周囲がうるさいのでヘッドセットで会話していたが、 小学生達が10分以上離さなかったのが興味深かった。 インターネットを通じて新たな対話シナリオを供給し、 1年間飽きさせない対話ロボットが目標とのことである。 これはこれで一つのロボットの姿かもしれない。

一方、バンダイの「ドラえもん・ザ・ロボット」は、 あのダミ声でしゃべるだけで子供には大人気なのであった。 「ドラえもんは究極のホームロボットなので、 本物の音声対話は2020年頃に実現できればいい方でしょう」 とはバンダイの技術者の弁。 まったくその通りなのだが、不完全な対話能力を前提に、 いかに実用的な対話を実現するかが求められている。

実は、音声対話で最も進んでいるのはソニーの 「SRD-4X II」である。 非常に多くの対話シナリオを持ち、バラエティ豊かな会話を実現している。 また、音声認識で難しいとされるオーナの名前などの未知単語も学習できる。 対話を介した育成型ロボットが目標にあるかもしれない。 単なる対話ではそのうち飽きるが、 ロボットが成長すれば、果てしなく対話を続ける原動力となるからである。

ビジネスデザイン研究「ifbot」 バンダイ「ドラえもん
・ザ・ロボット」
ソニー「SRD-4X II」

究極のキラーアプリ「家事代行」

ホームロボットのキラーアプリケーションは『家事代行』である。 料理をする、皿を洗って食器棚に片付ける、部屋の掃除をする、 幼児を30分見てくれる、 といった日常生活そのものをロボットに代行して欲しいのだ。 しかし、当分それは不可能だ。 それは現在のロボットには器用な『腕』が無いからである。 ASIMOやSDR-4X II、wakamaruの腕はほとんど飾りで、 パフォーマンスする位しか用をなさない。

もっとも自動車の組み立て工場では、 複雑な作業ができるロボットハンドが何十万本も使われている。 だが家事ができる腕はまだ当分開発できそうにない。 これはロボットの『眼』が悪いことが大きく影響している。 やっと顔だけはなんとか識別できるようになってきたが、 重なった皿や洋服のような形の変わるものはまだ充分に認識できない。

家事代行を中心に考えると、いかにもロボットらしい外見をしている必要はない。 センサで対象物を認識し、何らかの判断を下して行動する機械であれば、それはロボットである。 最近の洗濯機や食洗機もそのような機械ではあるが、 行動が機械の内部ではなく、外部に働き掛けるところがロボットである。 ROBODEX2003に出品されていたホームロボットは、 どれもインターネット接続、音声対話など汎用性を謳うがために中途半端に見えた。 単機能、低価格、この2点に絞って割りきった実用ホームロボットが見てみたい。

まずは、お風呂の掃除と、洗濯物を干して取込んで畳んでくれるロボットが欲しいかな。


《おまけ》

誕生直前の「アトム」 テムザック三洋「番竜」