巷ではオープンソースソフトウェアに関する議論が喧しい。 オープンソースソフトウェアにまつわるいくつかの迷信や誤解を検証してみよう。
オープンソースは安全のウソ
迷信その1。
オープンソースソフトウェアはソースコードが公開されているから安全である。 クローズドなソフトウェアは何が行なわれているか分からないから危険である。
オープンソース、クローズドソース、 ともにきちんとメンテナンスされていないソフトウェアは危険である(*)。 プログラムのドキュメンテーションとコードが一致していればよいのだが、 重複する情報をドキュメントとソース、ふたつの形式での維持は非常にコストがかかる。 一般に、オープン、クローズド問わず、文書とプログラムを完全に一致させることは 常にアクティブなソフトウェアであるほど難しい。
したがって実際に動くコードを参照でき、 真実により近い情報にあたることができるという点ではオープンソースが有利といえよう。 また他者が監査できるという可能性が高い点でもオープンソースが有利である。 一方で、オープンソースはクラッカー(攻撃者)もソースコードを検証し、 ウイルスやワームを開発することができる。この点ではクローズドソースが有利になる。
しかし他人の書いたソースコードを読むにはある程度の技量が求められる。 それを第三者に委ねるのであれば、その第三者が信頼できるか否かで結局は同じこと、 という考え方もできる。
注1) qmailのような例 もあるが、希有な存在である。
オープンソースは低コストのウソ
迷信その2。
オープンソースは自由に入手することができるから、 低コストでシステムを構築することができる。
オープンソースソフトウェアによってシステムを構築すれば、 一見、イニシャルコストは非常に低く押さえられそうにみえる。 しかしシステム構築にカスタマイズや調整はつきもの。 実際のところコストはかかるのだ。
また当然、保守のコストも検討しなければならない。 いまのところLinux技術者の数はWindows技術者の数よりも少ないので、 Linuxでシステム構築した場合はWindowsでシステム構築した場合より高くつくかもしれない。 ただしあくまでこれらは現在の技術者市場に基づいた話である。 今後、このバランスがどうなるか、いまはまだ予断を許さない。
この問題、オープンソースだから低コスト、いや商用ソフトウェアこそ低コスト、 と一概に断定できる易しいものではない。
オープンソースはソフトウェア産業を衰退させるのウソ
迷信その3。
オープンソースソフトウェアは販売できない。 知的財産を否定し、ソフトウェア産業を衰退させる概念だ。
オープンソースは知的財産を頭から否定する考え方、ではない。 ソフトウェアを重要な知的財産と考え、それを独占するのではなく共有する方が、 ソフトウェア技術の発展に寄与すると考えている。そのために、 改良したソフトウェアもオープンソースに強制するようなライセンスをわざわざ作ったのである。
たしかにオープンソースソフトウェアは、 知的財産の独占で利益を得るソフトウェアのパッケージ販売というこれまでの市場になじみにくいだろう。 オープンソースにおけるソフトウェア産業は真のサービス産業になることが求められているわけだ。 主要な知的財産を共有する中で、他社と競争しなければならない。 ソフトウェアの研究開発投資は複数のユーザ企業・SIベンダから募るなど、 現在とは異なる形態に変貌する必要もあるだろう。
これはある種の既得権の破壊であり、ソフトウェア産業を再編する可能性はある。 しかし、それがソフトウェア産業全体を衰退させるかどうかは分からない。
本文中のリンク・関連リンク:
- Open Source Way 2002 : 先日(12/20)にパシフィコ横浜で行なわれたオープンソース関係者のイベント。 オープンソースとビジネス、GPLの法解釈、オープンソースに対する政府支援のあり方、 などについて、講演に続いて活発な質疑応答が行なわれた。
- qmail のセキュリティについての保証: 優れたメール配送ソフトウェア qmail のセキュリティに関する文書。一読の価値はある。
- オープンソースと政府 : 政府調達でオープンソース・ソフトウェアをどう取り扱うべきか等、 各国の状況や日本国内のニュースを取りまとめたサイト。弊社提供。