動き出す構造改革特区
政府の 構造改革特区推進本部は、今月11日に 構造改革特区推進のためのプログラムを決定した。この 「構造改革特区」は、特定区域のなかで規制の特例措置を導入するもので、この部分的な規制緩和により、 その地域の特性に応じた産業集積の促進や新規産業の創出が期待でき、さらに、こうした成功事例を踏まえて全国的な規制改革に 繋げようというものである。地方自治体や民間が主導する特区構想に対して、426件の提案、約900項目の規制改革 要望があり、今回は取りあえず約80件の特例措置を特区に対して認めている。
産学連携が鍵を握るIT特区
提案のあった特区は幾つかの分野に分類されるが、農業関連に続いて提案数が多かったのが研究開発関連である。 大学や研究機関を核として、それらの知的資産を新規産業に結びつけるために、 外国人研究者の招聘や産学連携を進めるための規制改革を提案している特区である。このうち、やはり IT分野の期待は高く、例えば京都ITバザール・成長産業集積特区 や 大垣市IT文化特区などが手を上げている。
本コラムでも何度か触れているように、大学や研究機関を地域コミュニティのなかに上手く取り込み、地域企業との知的交流の密度 を高めるアプローチは、IT産業の地域集積を進めるのに有効だ。そのために、国立大学の教員による民間企業との時間内兼業、 大学施設等の民間企業による廉価使用、外国人の在留規制の緩和などを認めたのは、確かに大きな前進と言えるだろう。
残された課題
それでは、構造改革特区によるIT産業の集積化は、これで順調に進んでいくのか?やはり残された課題はある。
第一に、今回提案した特区は、ここで認められた特例措置を材料にIT関連企業の誘致等も進めるだろうが、 こうした先行メリットがいつまでも続くと期待するのは問題だろう。というのも、議論されている殆どの規制緩和は、 そもそも全国に波及していくべき性格のものだからである。仮にこれを永続的に特定地域に限定することを認めてしまうと、 規制緩和を進める本来の趣旨に反することになる。それぞれの特区が勝負すべきは、特例措置そのものではなく、 これを活かしてその地域のなかで何をするかである。
第二に、やはりお金の問題は残る。今回の特区構想では財政的な対応は行なわないので、予算面の措置は、 別途、地方自治体で行う必要がある。ここで、単発的な補助金に依存するのでは、従来通り失敗する可能性が高い。 地域のなかでIT産業のコミュニティを育成するには継続的な投資が必要であり、一時的な資金では長続きしない。 また、こうした補助金で調達した財産は、良く言われるように利用面の制約が大きい。状況に応じて現場の判断で 別の用途に流用することが難しい。今回の特区構想では、補助金で取得された財産の処分に関わる緩和措置を求める要望も あったが、これは従来通り各省庁が定める補助金の目的や内容の範囲内での運用となる、というのが財務省の見解だ。 これまで、こうした運用が補助金の使い勝手を悪くしていたことを考えれば、状況が大きく改善するとは思えない。 結局、税制や行政の関与のあり方を、地方分権の方向にもっていくための議論は避けられないということだろう。
いずれにしても、特区構想のなかで、IT産業の活性化に向けた提案が地方の自治体や大学等が主導する形で進もう としていることの意義は大きい。いろいろな面で、地方が独自の知恵と工夫で競争しようという動きが芽生え始めている。 企業や個人にとってはリスクが取り難い経済状況が続くが、こうしたトレンドを新たなチャレンジに挑むきっかけにできれば素晴らしい。