世界に広がるオープンソース政府調達の理由

オープンソースが注目されている。いまさら何をと言わないで欲しい。 これは政府や公的機関でコンピュータシステムを調達する際の話である。 単にオープンだから安いからというだけではない。 各国それぞれ深い理由があるのだ。ただし、日本を除き。

世界中で注目されるオープンソース調達

2002年6月、 ドイツ政府はLinuxの利用促進を図るために、IBMと包括契約を交した。 7月にはフランス政府がMandrakeSoftと契約し、 ノルウェー政府はMicrosoftとの契約を打切った。 イギリスは、政府が利用するソフトウェアを事実上オープンソースに限定する計画を発表した。 さらに、 欧州委員会は公的機関でオープンソースソフトウェアを共有し、 IT費用を削減するように各国政府に勧告した。

中南米はオープンソース調達の先駆けであった。 2000年にブラジルの4市で、 ソフトウェア調達の際にフリーソフトウェアを優先する画期的な法律が成立した。 2001年にはメキシコシティ市でLinux移行計画が開始された。 ペルー議会でオープンソースの使用を義務づける法案が提出されると、 Microsoftのビルゲイツ会長が55万ドルの寄付を携え、 ペルー大統領と直接面談するという事態に発展したことは記憶に新しい。

アジアでも、2001年末に北京市政府がMicrosoftを抑えて、 中国独自LinuxのRed Flag(紅旗)と契約した。 韓国でも2002年度にHancom Linuxを12万本調達する。 台湾は国を挙げてのオープンソースプロジェクトが発表された。 2006年には政府と学校の5割以上がLinuxを利用するという。

コスト削減だけではない社会的・政治的理由

各国政府がオープンソース調達に走るのはなぜか。 まず前提として、オープンソースソフトウェアの性能が向上してきたことがある。 信頼性、スケーラビリティ、スピード、そして市場シェア、 どれをとっても世界No.1になれる実力がついてきた状況がある。

採用理由の第一はコスト削減であることは間違いない。 ソフトウェアライセンス料はIT予算を圧迫し始めている。 例えば、台湾政府は5900万ドルの削減効果を期待している。 フロリダ州ラルゴ市役所は、既にLinux移行が進んでおり、 年間100万ドルを節約できると推計している。 特に、中南米やアジア諸国ではコスト削減が大きな原動力になっていることは間違いない。 そこには政府がオープンソースを調達することで、 国内ソフトウェア産業を育成しようという政治的な配慮も伺える。

しかし、経済的メリットはオープンソース調達に切り替える理由の一つに過ぎない。 国家のコンピュータシステムが単一ベンダに依存するデメリットも重要な理由である。 これは特定の製品に縛られると一般に高コストになるというだけではない。 また、内部(=ソースコード)が見えないシステムに不正が組み込まれても発見しづらい。 国家安全保障を確保するために、 システム内部の透明性とセキュリティの向上が欠かせないものとなり、 オープンソースの利点が注目されているのだ。

実は、思想的な側面も侮りがたい。 南米ではMicrosoftに支配されたソフトウェア産業を、 アメリカの経済的支配と一体化して考えている。 オープンソースの採用は、自由主義の尊重であり、 国内産業を育成し国家の誇りと自立をもたらすものであるという。

意外と遅れているアメリカ、そして日本

アメリカはオープンソース運動の中心ではあるが、 政府調達という意味では決して最先端ではない。 国内ソフトウェア産業の強い反発から、 政府調達の条件として採用される見込みは低い。 もちろん、オープンソース調達を促すレポートが出されてはいる。 IBMなどは純粋に性能や価格の優位性から競争に勝ち、 オープンソースシステムを政府に納入を果たしている。 しかし、政府として戦略的にオープンソースを採用するには至っていない。

それに引き換え日本はどうだ。議論はさっぱり盛り上がっていない。 経済産業省の大臣政務官は今年3月にオープンソースの採用について問われ、 互換性向上やコスト削減のメリットは承知しているが、 オープンソースは今後の研究予定と答えるにとどまった。 政府内にも真剣に検討している人々はいる。 しかし、全体としては動きが遅すぎる。

政府がオープンソースを採用すると、 低予算で数多くの学校や公的機関にソフトウェアを配ることができる。 ソフトウェアを改良すれば全ユーザが恩恵に預かれる。 つまり、e-Japan計画に必要な全国IT配備を促進する手段となる。 また、ソフトウェア開発と導入・運用・教育は別々のベンダが実施することもできる。 このため中小ソフトウェアベンダでも参入機会が増え、新たな競争が発生する。 停滞するIT産業を活性化するチャンスでもあるのだ。