自分で治す自律コンピューティング

最近パソコンの調子が悪い。今日のリブートは3回目。 パソコンが多機能化するにつれ、安定性や信頼性は落ちる一方だ。 ソフトをインストールする度に、少しずつ壊れていると言っても過言ではない。 とはいえ最新機能も欲しい。なんとかならないものか。 10年後に「自律コンピューティング」ができれば、 そんな不満も無くなるはずだ。

最近のサーバが複雑過ぎて手に負えなくなっている

IBMはしばらく前から自己修復機能を持つサーバの研究を進めている。 データベースサーバやウェブサーバは巨大に複雑になり過ぎていて、 最適に設定できるエンジニアが不足している。 このため出荷時にすべての調整を終えることが、 ほとんど難しくなっている現状があるのだ。

そして一旦運用を始めたら、予測不能ないろいろな障害が発生する。 その度にエンジニアが調整しなければならない。 これではベンダもたまらない。 そこで自己修復サーバが欲しくなるわけだ。

IBMの自律コンピューティング

自律コンピューティングは自己修復をさらに進めて、 人間のように「強い」システムを作り出すことを目標にしている。 IBMによれば自律コンピューティングには次の4つの能力が必要とされる。

  • 自己構成能力 … 状況に応じてシステム内の変更に適応できる
  • 自己最適化能力 … 性能を自ら改善できる
  • 自己修復能力 … エラーが発生したら修理できる
  • 自己防御能力 … 外部からの侵入を検知し阻止できる
これらは人間なら誰でも、いやすべての生物が持っている能力である。 走りだせば勝手に心拍数は上がるし(自己構成)、 トレーニングすれば筋肉がつくし(自己最適化)、 ちょっとのケガなら独りでに治るし(自己修復)、 ウイルスが入っても簡単には風邪ひかない(自己防御)。

ところがコンピュータで実現しようとすると、そう簡単ではない。 意外なようだが、そもそもコンピュータがどうやって動いているのか、 よく分からなくなっているのだ。 みんなが良かれと、いろいろ機能を追加してしまった結果、 全体が見えなくなってしまったからだ。

まずは、多数のプロセッサがお互いを監視し合い、 トラブルを発見したら他のプロセッサが肩代わりするような仕掛けから始めるようだ。 その後、データベースの応答を高速化するように自己調整したり、 遅くなってくると自動的に再起動してリフレッシュするような機能が登場するだろう。

HAL9000の世界は人に優しくないかも

思うに自律コンピューティングの鍵は、 コンピュータが自分で自分自身を評価できることだ。 そのためには他のコンピュータも比較評価できなくてはいけない。 人間でも自分一人しかいなかったら、 自分が良い状態なのか悪い状態なのか分からないはずだから。

将来のコンピュータにとっては、 人間も他のコンピュータと同様に比較評価の対象になってしまうかもしれない。 『こいついつも入力が遅れるなあ。待っていたら他のジョブが遅れてしまうぞ。 こいつの分はやった振りして後回しにしてしまえ。』 などということが起らないとは限らない。

これはまさに「2001年宇宙の旅」のHAL9000の世界ではないか。 コンピュータ相手なら端末の向こうで密かにやっている分には気付かないかもしれない。 でも、人型ロボットにこれをやられたら傷付くだろう。 そんな時代にはロボハラ(ロボットハラスメント)なんて言葉が流行っているのだろうか。