日本が決勝トーナメントに進んだことでFIFAワールドカップも盛り上がっ ている。その一方で、開幕当初チケットが完売しているにも関わらずスタンド に多数の空席が出て、海外での販売を担当しているイギリスのバイロム社の対 応などからさまざまなトラブルになったことは記憶に新しい。 さて、今回の騒動から人気チケットを入手するにはどうすればいいか、またシ ステムはどうあるべきか考えてみたい。
ワールドカップチケット騒動顛末
毎日各メディアでワールドカップの報道を目にするようになり、 多くの空席があれば行きたくなるのも当然だろう。 しかし、今回のワールドカップでは、前回の混乱を教訓に、 5月始めの販売以降はスポンサーチケットなど一部の高額チケット以外は売らないことになっていた。 にもかかわらず、開幕直前から既に完売とされていたチケットを含め Last Minute Sales と称して、 インターネットのみで販売を始めたことから混乱が生じた。
各メディアでこの報道されるようになると、 チケット販売サイト にはほとんどつながらなくなり、 緑の背景に「ご迷惑をおかけしますが、現在サーバがオーバーロードしております。」 という各国語で書かれたページを見た人はたくさんいることだろう。 また、一時はこのページすら表示されないこともあり、 夜明け頃にならないとチケットが残っているかどうかの確認もできないほどだった。 結局、余っているチケットのデータが更新されるのは深夜だった (イギリス時間の夜遅く)ため、 チケットが取れたのは深夜から明け方に頑張った一部の人だけに限られたようだ。 実際、明け方まで頑張って、 クレジットカードの番号入力する予約手続きの最後まで進んだにも関わらず、 うまく買えずに悔しい思いをした。
今回のシステム上の問題は、以下のようなことだったと考える。 過負荷でトップページにすらアクセスできない上、 クレジットカード番号を入力してログインするまで残席数が分からなかった。 席が割り当てられても過負荷のため購入手続きの途中で止まることも多かった。 また、残席数が正確ではなく一時的に売り切れになっても後日追加されたりするため、 多くの人があきらめずに何度もアクセスをすることになった。 ただし、逆にシステムが不完全だったために、 誰もがうまく取れないままチケットが残ってしまい、 結果として明け方まで頑張った人はそれなりに取れたようだ。
インターネットによるチケット販売
航空券やホテルなどはネット予約も、 電話予約と同様に先着順に受付をするのが一般的である。 特に航空券は当日でも安く購入できることもありネット販売が主流になるだろう。 大手のぴあをはじめ イープラス、 ローソンチケットでは、 電話予約同様にさまざまなチケットを販売している。 アメリカでは各映画館の時間指定チケットもインターネット経由で購入することが可能だ。
その一方で、 一定期間内で受け付けた予約を抽選で決めてから発券するという手順もある。 人気コンサートでは、 ワールドカップ同様アクセスが集中するため、公平な販売方法といえるだろう。 ワールドカップでもJAWOCが国内販売したものに関しては、抽選を採用していた。 もっとも〆切ギリギリに申し込もうとするとアクセスが集中してつながりにくく、 間に合わないこともあるので注意が必要だ。
負荷分散をはかるには?
国内航空会社が期間限定で非常に安価なチケットをネット販売し始めた当初、 通常の予約システムで扱おうとしたため、 アクセスが集中してつながらないなどの混乱が生じた。 そこで、システムを改善するだけではなく 普段から利用の多い会員には、一般予約とは別に先行予約を受け付けることで、 システムへの負荷を減らすとともに、会員への特別サービスを提供している。 コンサートやライブの予約でもファンクラブ枠を用意している。 このように運用で混乱を避けることもできる。
しかしながら、まずはシステムで対応すべきだ。 サイトにアクセスするには名前からIPアドレスに変換された上で接続する。
その際、DNSラウンドロビンと呼ばれる方法で、 名前に対して複数のIPアドレスを割り当てる方法がある。
例えば、チケット販売サイトである www.fifatickets.com という名前には
202.234.158.33
, 202.234.158.49
,
202.234.158.66
というIPアドレスが割り当てられている。 これで理想的には 1/3
の負荷になるはずだ。 しかし、実際にはキャッシュなどの問題もあり、偏りが生じることになる。
また、今回の場合はネットワーク的にも近すぎるため、 接続すらされない状況からするとトラフィックにもあまり効果がなかったようだ。
このような問題があるため、負荷分散のためには、 ロードバランサという専用のハードウェアまたはソフトウェアを使うことが主流になっている。 ブラウザから指定された URL を解析して振り分けたり、 Cookie を使ったセッション管理されている場合には、ユーザごとに振り分けている。 計算負荷の大きいSSLによる接続を高速化するものや映像配信に特化したものもある。
このような負荷分散を行なっても、 参照・保存するためのデータベースが遅かったり ネットワークが輻輳していてはあまり意味がない。 最終的には、8秒ルール(8秒以内に反応がないとユーザにはストレスになる) ユーザインタフェースも守らなければ、使い勝手がいいとは言えない。
次は Last Minuteバーゲン機能を
今回の騒動を見ても、 オリンピックやワールドカップなど世界的なイベントの予約を公正に扱うことは難しい。 次のイベントでは、高負荷に耐えられるシステムを構築して欲しい。 そのためには、まずトップページと予約のためのサーバを分離すること、 試合ごとにサーバを分けたり、URLやCookieごとにロードバランサで分離 するなどの対策、ネットワーク的な分散配置、 高速なデータベースを用意するなどが考えられる。 ただし、売れ残ったチケットを直前までネット販売することは、 空席が減ることにつながり、見たい人にはうれしいはずだ。 航空券やホテルも同じく、直前でも余っているチケットは、 ネットでは安く販売する「Last Minute バーゲン」を実現すれば、 ネット販売も広く浸透するのではなかろうか。
※ちなみに、今回うまくチケットを取るには、 単純にリロード([F5])を繰り返すのではなく、 ブラウザのキャッシュを消したり、 Ctrl あるいはShiftを押しながら更新ボタンを押して、 ページを強制的に更新させる必要があったようだ。 DNSラウンドロビンを無視して、 IPアドレスを直接指定するのも効果があったのも皮肉なものだ。
本文中のリンク・関連リンク:
- チケットのネット販売
- ロードバランサ
- ワールドカップチケット情報交換サイト