ほとんどの人がMicrosoftのWindowsかOffice製品群のことを思い浮かべるだろう。 Microsoft製品の「XP」は”experience”を意味し、エンドユーザが生産性向上を 経験できるという開発コンセプトを示したものだということをご存知の方も多いかもしれない。
『エクスペリエンス・デザイン』という考え方は、もともとインタラクションデザインにおいて、 時間軸を加えた設計思想として生まれた。 以来、webデザインからはじまり、 コンテンツデザイン、アプリケーションデザイン、工業デザイン、建築デザイン、 マーケティング分野にまでも、顧客の”感動体験”や”満足体験”などがちょっとした流行語になっている。 スターバックスコーヒーでもコーヒーを売っているのではなく 「今までのコーヒー店では得られなかった”スターバックス エクスペリエンス”」を売り物にしているという。 同社のホームページ でもそのことが明示されている。
利用者は「情報の消費者」なのか。
これまでの情報サービスにおいても情報を消費させるといった考え方が多くみられた。 たとえば、情報やメディアという名が付いた公共施設の大部分は、 マルチメディア体験ランドや地域情報センター、ノンリニアビデオ編集ブースの貸出 といっても、その場かぎりで陳腐化してしまうようなサービスがお仕着せとなっていて、 うまく活用されないなどの問題点が指摘されていた。体験や経験から活動につながるコンセプトが必要だ。
映画や音楽などのコンテンツを考えてみても、人はそれらをただ消費しているだけではない。 その音楽を、いつどんな時に、誰と何を思いながら聴いたかが思い出と一体になって、 さらに次の期待や夢へとつなげていく。 いま人々はモノを消費することから、 何かを感じ活動したいという欲求に変わってきているように思う。
人の経験のためのデザイン
ははたしてどのようにしてできるのか。 「体験」の中で起こる記憶や感情は人ぞれぞれなのは間違いないが、 それをそっとサポートするための仕掛けはできないのか。いまデザイナの最大の関心事だ。
かつて私たちが実験を行った ハイブリッド水族館 の仕掛けは、ホームページによる事前学習(予習)、ポータブルPCによる見学(体験)、 そしてホームページによる事後学習(復習)によって、知識に対する、気づき、発見、 記憶の定着という学習サイクルをサポートするものであった。 子どもたちは、事後学習で楽しいスケッチを画用紙に描いて私たちに贈ってくれた。 やはり自分を見つけることができる体験や、楽しい思い出をいっぱい持つことが大切だと感じた。
数学者であり、哲学者、エンジニア、デザイナ、そして建築家であった バックミンスター・フラーは、「人は経験の目録だ」と語った。
私も、来春オープン予定のある文化施設で導入する「期待、経験、記憶、期待、、」 のサイクルを明確に入れた情報システムの設計に着手したところだ。
参照
『AXIS』最新号(vol.97)
「特集:デザインの可能性を再認識する・前編」
2000.03.21「情報リテラシー教育の未来?ハイブリッド水族館の試み?」
(Take IT Easyバックナンバーより)