リストラの対象にされる情報システム部門
多くの日本企業に蔓延している情報システム部門の弱体化が、銀行業界でも深刻になっている。 貸出が伸びず、有価証券運用もかつての旨みを失い、手数料ビジネスの展開シナリオも見えない。 新たな収益モデルを見出せていないのが殆どの邦銀の実態である。業務粗利益が伸ばせないならば、 経費圧縮に向かわざるを得ない。そこで、情報システム部門にも厳しい経費削減が要求される訳である。
情報システム部門には、システムの企画、開発、運用といった役割があるが、このうち従来から企画機能が弱い、という課題があった。 各業務部門がそれぞれに起案するシステム投資を十分にマネジメントできずにいたのである。 そこに、経費削減ということで情報システム部門が面倒を見てきた基幹系の運用をベンダにアウトソーシングするようになる。 こうなると、情報システム部門の存在意義は急速に失われ、そもそも組織自体をリストラしようという話にもなる。
舵取りを失いベンダや業務部門に振り回される
しかし、このように情報システム部門を弱体化させた銀行の多くは、新たな悩みを抱えている。 まず、アウトソーシングするベンダに対する交渉力が低下し、依存体質が強まる。 当初、基幹系の開発に携わった人材が失われ、ベンダの提案を評価できず、そのまま鵜呑みにしがちになる。 交渉力が低下すれば既存システムの維持運用コストも膨らむ。 例えば、新たな機能拡張をしようとしベンダに仕様開示を求めると、思わぬ技術支援料を支払わされる。 アウトソーシングは、それをすると直ちに経費削減ができるような打ち出の小槌ではなかったのである。 こうして維持運用コストが拡大しために、多くの銀行では新たな戦略投資に回す予算が圧迫されている。
他方、銀行ビジネスが情報システムに負う所は急速に拡大している。 従来にも増して、各業務部門は新たなシステム開発の予算を情報システム部門に要求する。 こうしたシステムは全く独立なものでは有り得ないので、そうした場合の調整を情報システム部門に依頼する。 しかし、弱体化した情報システム部門は、こうしたリクエストに応じきれなくなっている。 いつの間にか、銀行全体の情報システムのグランドデザインに責任を負うべき当事者が失われてしまっているのである。
進むアウトソーシング・共同化
一度動き出した流れは止まりそうにない。 もはや自前で情報システムを企画・開発し、単独で運用する負担を支えきれないと判断する地銀の間では、 システム共同化の動きが進行している。システムの共同化まで事が進めば、自前の情報システム部門は要らない、 という議論もかなり現実味を帯びてくる。
求められる情報システム部門の再構築
筆者は、すべてのシステムを自前で開発し、運用するのはやはり無理があり、アウトソーシングや共同化の方向性は支持している。 しかし、それで情報システム部門を投げ出すのは賛成できない。改めて、情報システム部門の位置付けを明確にする必要がある。 結論から言えば、システムの開発や運用はともかく、従来弱かった企画機能と調達機能の強化を急ぐべきである。
企画機能の観点では、第一に、経営戦略の観点から個別のシステム投資の妥当性を評価し、 個別システムが収益を生み出すまでをマネジメントする仕組みを構築することが先決だ。 これはすべて情報システム部門が担うべき所でもない。むしろ、経営戦略に責任をもつ総合企画部門と連携しながら、 システム投資委員会を運営することを奨めている。 第二に、情報システム部門は情報システム全体のグランドデザインに責任をもつ必要がある。
調達機能の観点では、市場に投入されているソリューションと市場価格を把握し、 現在導入しているシステムとのギャップを監視することが重要である。 アウトソーシングをする場合も、サービスレベルの内容や保守契約の内容について常にベンダと調整を行わないと、 経費削減の効果も期待できない。
経営戦略と一体化したシステム戦略をもつのであれば、アウトソーシングや共同化は全ての問題を解決してはくれない。 独自のシステム戦略の構築に向けて、銀行の情報システム部門の再構築が求められているのである。