ソフトウェアのライセンスと製造物責任

ソフトウェアは無形の工業製品だ。形がないものを管理する手段として、 現在は「ライセンス」で利用を制限することが一般的に行なわれている。 ソフトウエアをインストールする際に、 ライセンス条項に「同意する」のボタンを条件反射的にクリックした経験が誰しもあるだろう。

でもちょっと考えてほしい。 何も読まずに「同意」していると、 そのうち痛い目にあうかもしれないおそれがあるということを。

ユーザに不便を強いるライセンス管理技術

マイクロソフトの最新OS、Windows XP がもうすぐ発売される。 その Windows XP の前評判として非常に話題になっている機能のひとつに、 プロダクトアクティベーションがある。 このプロダクトアクティベーション、 先行する Office XP にも採用されているので既に体験されている方もいよう。 プロダクトアクティベーションとは、 ハードウェア構成の情報を利用して不正利用を阻止するための機能だ。

ライセンス管理の試みとして採用された機能だが、 残念なことに技術・運用双方の面からみて、 やや不備が残されている技術と言わざるをえない。

この機能の問題点は、 メーカの利益確保のためにユーザに不都合を強いているところにある。 ただでさえ手続きが煩雑になるうえ、 ハードウェア構成を変えると不正利用と見做されることもあるという。 レコード店などで商品に万引き防止タグがついているのも煩わしいものだが、 それ以上に反発を感じるユーザも多いのではなかろうか。

クローズドライセンスとメーカの責任

プロダクトアクティベーション以上にユーザを軽視しているライセンス契約が、 いわゆるシュリンクラップライセンスと呼ばれるものだ。

シュリンクラップライセンスとはパッケージを破ったら契約に同意したと見做す、 というものである。 ユーザはパッケージを破ると返品できない。 オンラインソフトの場合はシュリンクラップに倣いクリックラップライセンスとも言われる。 いずれも契約前に検討する余地が少ないという面で、 ユーザは弱い立場に立たされている。

これらのクローズドなライセンスはこれまでメーカ側の都合で決められてきた。 ユーザからしてみれば、権利を主張する以上は責任を全うしてほしい、 というあたりが切実な願いだ。

オープンソース/フリーソフトウェアのライセンス

さて一方で、GNU/Linux に代表されるフリーソフトウェア、 オープンソースソフトウェアにおけるライセンスはまた異なった目的を持つ。 なおフリーソフトウェアとオープンソースを同一に論じると嫌がる人もいるが、 本稿の文脈では同じ立場とさせてもらう。

オープンソースのライセンスが主として保護しようとする対象は何か ?

オープンソースライセンスは前述のライセンスと異なり、 直接の利益の保護を目的とするものではない。 様々なオープンソースのライセンス形態ほぼ全てに共通する主張で重要な観点は 「あるがままに提供するので文句は言わないでほしい」ということだ。 自己責任で使ってくれ、ということを主張するライセンスである。 つまり権利には興味はないが責任を追求されるのは困るよ、ということであり、 基本的にはクローズドなライセンスと対極をなす考え方といえる。

もちろんオープンソースライセンスをめぐる考え方は今のところ様々である。 企業の提唱するオープンソースライセンスには裏の意図が見え隠れしてみたり、 あるいはGPLはウイルス的ライセンスだと揶揄されてみたり、 オープンソースに関するライセンスの話題は喧しい。 これは権利が絡む話題だけに、いたしかたないところだろう。

オープンソースライセンスの成功事例

ではオープンソースライセンスは製造物責任を放棄するというだけの消極的なものに過ぎないのか。 最後にオープンな考え方のメリットを端的に示す事例を紹介することで、 その疑問に対する回答としたい。

最近あちこちで見かけるようになった Linux のマスコットの Tux (図)。 この画像は自由に利用してよいだけでなく、 改変して利用しても構わないとされている(※)。

一般に、ロゴの利用には厳しく規制がかけられることが多いが、 対してこのケースは実に緩いライセンス条件である。 オープンソースの理念を明確に表しているものだといえるだろう。 そしてその結果は皆さん周知のとおりである。 Tux は Linux のイメージキャラクターとして瞬く間に 世界中に広まった

(※ 正確には Permission to use and/or modify this image is granted provided you acknowledge me lewing@isc.tamu.edu and The GIMP if someone asks. なので、 Lewing (作者)と GIMP に感謝して使わせてもらっているということを必要に応じて示すという条件のもとで、 という但書きがつく)。