最近、IPv6 対応の製品やサービスが頻繁にアナウンスされるようになった。 IPv6 は、現在インターネットで利用されている IPv4 の後継プロトコルで、 広大なアドレス空間やセキュリティ機能などが期待されている。しかし、既に 多くの人がインターネットで IPv4 を利用している現在、いきなりみんなが IPv6 に切り替えられるわけではない。そこで、IPv4 から IPv6 への移行期に 活躍しそうな技術がいくつか開発されている。 「IPv6 over IPv4 トンネリン グ」(以下、IPv6 トンネリング)もそのうちの一つだ。
IPv6 トンネリングとは?
IPv6 トンネリングとは、IPv4 ネットワークを使って2つの IPv6 ネットワー ク間を繋ぐ技術だ。たとえば、すでにインターネット接続ができていれば、 IPv6 対応ルータを導入するだけで、IPv6 ネットワークに繋ぐことができるわ けだ。IPv6 専用に回線を用意しなくてすみ、既存のネットワーク機器もその まま利用できるため、IPv6 を実験的に導入する場合には大変有効な方法だ。
IIJ や OCN などの大手プロバイダーからは、すでに IPv6 トンネリングサー ビスが提供されており、企業向けだけではなく、個人向けサービスも始まりつ つある。また、IPv6 対応ルータも、大規模ルータから家庭向けアクセスルー タまで、ラインナップが揃いつつある。コンピュータのOSでも、BSD, Linux, Solaris などの Unix 系に加えて、Windows XP や MacOS X で使えるようにな る。企業だけではなく個人レベルでもやっと、 IPv6 が利用できる土壌が整っ てきたわけだ。
IPv6 の必要性
IPv6 の話をすると、「IPv4 で十分なんじゃない?」という声をよく聞く。 確かにインターネットは予想よりもよく機能しているし、社内LANに閉じた利 用を前提にすれば IPv4 で十分という気持ちもよくわかる。では、なぜ今 IPv6 が必要なのか。
第1には IPv4 アドレス数の問題があげられる。「IPv4 アドレスは高々40 億個しかなくて、全世界の60億人に一つずつ割り当てるともう足りない」とい う話もあるが、事態はもっと深刻なようだ。携帯電話や家電製品、自動車、街 頭設備などにも IP アドレスを使う計画があるため、数年後にはIPv4 アドレ スが枯渇するという予測もある。
そして、IPv6 は IPv4 に足りない物や過剰な物を精査して考え出されたプ ロトコルなため、例えばセキュリティ機能やプラグアンドプレイ機能、端末移 動機能なども含まれている。IPv4 でもこれらの機能は追加できるが、後から 付け足したために運用が難しかったりする。
つまり、アドレス不足によって将来は IPv6 を使わざるを得ないのだから、 今から移行を進めて、IPv4 に足りなかった機能も享受しよう、ということだ。
トンネリングはアングラ技術
IPv6 以外でも、トンネリング技術は古くから数多く開発されている。例え ば インターネット VPN (Virtual Private Network, 仮想専用ネットワーク) や、IP over ATM (ATM網上で IP を使う技術)などはその代表だろう。そのほ か、ホームページコンテンツを更新する際にも使われる WebDAV (HTTPプロト コルベースのファイル管理プロトコル)なども、ファイアウォールをかいくぐ るための、広義のトンネリング技術と呼べるだろう。
これらのトンネリングは、「あるプロトコルを使いたいけれど、今は有効 な専用の環境(通信路など)がないので、既存環境を仮に使っておこう」という 意味合いが強い。そのメリットは、すでにある通信路を使うために、利用コス トが抑えられ、すぐに多くの地域で利用できることなどが挙げられる。既存の 通信機器が使えるため、安価に安定稼働が望めることも強みだろう。逆にデメ リットは、通信に無駄があり、速度が遅くなることである。
トンネリング技術が開発される背景には、「とても優れたプロトコルだか ら、何として普及させて多くの人に使ってもらいたい」という技術者の願いが 込められている。少々のデメリットが生じても、まずは既存環境でアングラ的 にでも多くの人に使ってもらい、プロトコルの普及に従ってネイティブ環境を 増やしてゆくというサイクルを回したいのだ。
IPv6 普及の鍵はトンネリング
IP over ATM 技術はインターネットバックボーンの普及に大きな貢献を果 たした。現在でも多くの地域で利用されているが、最近では光ファイバを LAN のように利用して、ATM 無しで IP を使う技術が普及してきている。インター ネットが多くの人に使われるようになった結果、IPv4 は ATM 上のトンネリン グからネイティブ(余分なプロトコル上でトンネリングしない)環境へと移行し つつある。
IPv6 が IPv4 よりも優れていることは確実である。また、e-Japan 戦略で も「国際的な取組の強化」としてとりあげられているように、日本が欧米より も技術開発が進んでいる分野でもある。ただし、多くのユーザは移行の必要性 に半信半疑なのだろう。だから、まずは多くの人にそのメリットを実感しても らうためにも、IPv6 トンネリングをみんなに使ってもらうことが肝心だろう。