と思っている。以前からよいマイクが欲しかったのだが、再燃のきっかけは、 1ヶ月程前に発売になったモレレンバウム夫妻(チェロ、ボーカル)と坂本龍一(ピアノ)による アントニオ・カルロス・ジョビンへのトリビュートアルバム『CASA』だ。 このアルバムは、ジョビンの曲を、生前愛用していたピアノを使って ジョビンの家でレコーディングしたものだ。
普通スタジオレコーディングで使用されるミキサは数千万円クラスもざらだが、 今回使用されたデジタルミキサ(YAMAHA社 O2R)は実勢単体価格が50万円を切るもので、 ソフトウェアとインタフェースユニットで構成されるMacintoshベースの録音編集環境(DIGIDESIGN社 Pro Tools) によって、実質3日間で収録されたそうだ。 曲の途中にふいに鳥の声が入ったりすると、とたんにその場の空気が感じられる。不思議だ。
このような安・直・小なデジタル音響機材は、私自身 IAMASをはじめとするメディア関連施設に導入してきたのだが、 プレーヤやレコーディングエンジニアによって効果が最大限に引き出された作品に触れ、 改めて「自分もやってみたい!」と思った。 アルバムではどんなマイクを使ったのかわからないが、 マイキングだけは本当に個性が出ると言われている。 最近真空管マイクがブームになっているというのがまた面白い。
芸術文化は、人々に創作意欲を与えるという大切な役割も担っていると思う。 はたして、アルバムの中の1曲は、私に1日でクラシックギター重奏用に編曲させてしまった。
レコーディングエンジニア
と言えば、この夏に第一線で活躍されている レコーディングエンジニアの赤川新一さんとお話する機会があった。 赤川氏は STRIP Studioを拠点に スタジオ設計からルームアコースティック調整、モニタースピーカー開発などと 幅広く活躍されている方だ。創意工夫によってローコストに抑えながら ハイクオリティな「響き」を追求し続ける情熱は業界では有名だ。 今年の春に行われたIAMASのサウンドスタジオの 音響特性改善作戦も赤川氏の本領発揮となった。
たとえば、オリジナル製品のラインミキサ MixBufferは、16chのアナログ信号をMixして2chにする単純明解な機能を持っている。 普通デジタル録音とはマイクで拾われた音をA/D変換し、デジタル信号の状態で デジタルマルチトラックシステムで記録することをいう。 これを最終的に2chに落とし込んでいく作業が「ミックスダウン」だが、 デジタルミックスでは、たとえば「48KHz/24bitの中にどれだけの音を詰め込めるか」 との戦いになると言うのだ。 ところが、チャンネル毎にD/A変換をしてアナログミキサでミックスする方が それぞれに分解能が生き、出来あがる”箱”が大きくなる感覚があるそうだ。マジカル!
赤川氏は言う。
「学校スタジオ」の仕事は、もっともっとやっていきたい。 小学校の音楽室なども、オーディオシステムを含めてルームアコースティック調整が 必要と思います。こんな事に国や県が予算を出してくれるとは思えませんが、「文化」 的にはとても重要な気がします。海外のアーティストやミキサーの多くは、自分で響きを作るときにも経験則で判断できるそうだ。 「響き」を聞き分ける鋭い感覚を付けるためには、 子供の頃から「遮音壁のない部屋(自然な響きの中)」に慣れさせることが大事なようだ。
プロオーディオの世界から、 犬の鳴き声から6 種類の感情を分析判定し人の言葉に置き換えてくれる 『バウリンガル』のようなオモチャの世界まで、 マジカルなサウンドワールドはこれからもきっと楽しい。
参照
デジタル音響機材導入施設例としてIAMAS
赤川新一氏所属のSTRIP Studio
IAMASのサウンドスタジオの 音響特性改善作戦
同紹介記事
「サウンド&レコーディング・マガジン」(リットーミュージック社)
2001年5,6,7,8月号
“HOW TO BUIDL YOUR STUDIO”
ラインミキサ MixBuffer
タカラ『バウリンガル』