インターネットは巨大な広告市場である。 電通の調査結果によれば、 昨年のインターネット広告費は590億円で、 前年の241億円の2倍を超える規模となった。 それでも全広告費の 1% にも満たない状態であり、 メディアとしての影響力を考えれば、 さらに拡大していく余地が十分に残されているといえる。
にも関わらず、最近、 「インターネット広告が岐路に立たされている」 という記事をよく目にするようになった。 バナー広告をはじめてビジネスとして確立させた Yahoo! でも、 売り上げ収入の90%を占める広告事業の苦戦が伝えられている。 インターネット広告の出現で、当初、 その存在すら危ぶまれた新聞の折込チラシは、 減るどころかむしろ伸びているという 調査結果もある。 インターネット広告に未来はないのだろうか ?
評価フェーズにはいったインターネット広告
特に苦戦が伝えられる米国での状況はどうだろうか? AdZone Interactive の調査によれば、米国の インターネットの広告収入は、今年の4月に底を打ったものの、 その後若干盛り返してきている。 米国において危惧される状況は、むしろネットバブル崩壊に伴う 一時的なものという見方もできる。
しかし、ここ数年で、 新しいチャネルに乗り遅れまいと新たにインターネット広告に乗り出した企業が、 冷静に広告効果検証のフェーズにはいってきたというのは事実としてあるだろう。 加えて、米国においては、今年に入って IT バブルが崩壊し不況感を強める中で、 企業は既存ビジネスの見直しを余儀なくされている。 経費に対して効果が認められなければ、当然切り捨てられる運命にある。 おそらく今年、来年あたりで広告効果を検証した結果として、 厳しい見直しを余儀なくされるケースが増えてくるだろう。
評価定まらない広告効果
さきの電通の調査によれば、昨年のインターネット広告費は、 ラジオ広告費の約4分の1、テレビ広告費の実に 40分の1に過ぎない。 インターネット人口が増え、また、ブロードバンドがますます普及する中で、 今後ともインターネットのメディアとしての影響力が、 ラジオの4分の1、テレビの 40分の1でありつづけるとも思えない。 現在国内で最大のインターネット広告メディアである Yahoo! JAPAN の一日当たりのページビューは、 この8月で2億ページビューを越えたという。 間違いなく魅力的な広告媒体である。 しかし、どのくらいの広告効果があるのか、という点については、 なかなか評価の一致をみないというのが現状である。 単純に訪問者数や視聴率だけで広告効果を測ることは難しい。 例えば、Yahoo! の訪問者数と新宿駅の利用者数を比較して、 広告効果を論じることには何の意味もない。 メディアとしての特性や、見る人の目的や見る時の状況も全く異なるからだ。 こうした状況から、特に米国では、 従来のクリック保証型や表示回数型ではない成果報酬型の方法もよく見られるよ うになった。広告効果を推定して広告価格を決めるのではなく、実際に どのくらいのリターンがあったかをもとに広告価格を決めるというわけである。 ただ、企業イメージのブランディングという意味も含めれば、 通常考えられているよりもはるかに多くの効果があるという レポートもあり、やはり問題はそれほど単純ではない。インターネットならではの広告を
一方、広告を見る側からすると、現在のインターネット広告はどうだろうか ? 筆者はもともと広告を見るのが好きである。 テレビのコマーシャルや電車の広告を特に何も考えず、 ボーと見ているのは思いのほか楽しい。 もちろんそこで得られた情報が購入に結び付くこともある。 しかし、インターネットのバナー広告はほとんどクリックしたことがない。 「魅力を感じない」「興味がない」「そんな時間はない」 というのがその理由だ。
誰が広告を見るのか、どういう状況で見るのか ? こうした観点からの新しいいくつかの試みがある。 ねっとdeびゅう では、 雑誌感覚で見てもらえるようなページ作り(巡回型ポータルサイトと呼ばれる) に取り組んでいる。広告は次々に表示されるページの途中に挟み込まれるが、 あたかも雑誌で広告を見るように、”なんとなく目にはいってくる”、 そんな感覚を狙っている。 また、GoTo.com に見られるような有料登録型検索エンジンでは、 バナー広告ではなく、検索結果として登録先を出力する。 本来ユーザの視点に立つべき検索エンジンが広告料に応じて 検索結果のランキングを操作することを問題視する向きもあるが、 ショッピングや関連サービスの検索がユーザのそもそもの目的であれば、 ピタリ一致した検索結果(広告)を出すことができる。
広告効果をあげようとしたこのような新しい試みもいくつかあるとはいえ、 現状のインターネット上の広告は、 雑誌広告やテレビ広告の延長線上にある。 いくらインターネットが巨大なメディアであるといっても、 テレビ、雑誌と同様のマス広告である限りは自ずと限界も見えてくる。 今後、ブロードバンドの普及に伴って、 ストリーミングを使った広告なども増えてくるだろう。 ダイヤルアップでの利用を前提とした場合には、 自ずと製作側にも限界があったが、今後は、質の高い画像、動画、 音声を採り入れて行くことも可能になってくる。 1 to 1 のオリジナルストリーミングコンテンツや、対話型の広告など、 インターネットならではの広告が望まれるところだ。 思わず見入ってしまうような広告、感動を与えるような広告、 思わず笑ってしまう広告、そんな広告が出てくることを望みたいし、 きっとそんな広告なら効果絶大だろう。
本文中のリンク・関連リンク:
- 2000年の日本の広告費に関する調査結果(電通)
- 折込広告についてのレポート
- 米国の広告費に関する調査レポート(AdZone Interactive)
- Yahoo!JAPAN の一日あたりアクセス数
- オンラインブランディングに関するレポート
- 新しい広告形態を模索するサイト