ブロードバンド時代がようやく身近なものになり始めている。 インフラが整えられたあと、 やはり問題となるのはネットワークを流通するコンテンツである。 今回はブロードバンド・ネットワークを流れるコンテンツと、 コンテンツをめぐる著作権ビジネスについて考えてみたい。
ブロードバンド時代の到来
昨今の通信業界に飛び交うニュースに聞耳を立てると、 やれADSLだ、常時接続だ、となかなか喧しい状況になっている。 ブロードバンド人口もおよそ100万人に到る勢いであり(2001年4月現在の、 DSL加入者およびケーブルインターネット加入者の総計)、 100Mbpsの伝送速度を持つFTTHサービスを 有線ブロードネットワークス社が提供し始めるなど、 話題には事欠かない。 平成13年度版の 情報通信白書でも、今年を「ブロードバンド元年」と位置づけ、 今後のインターネットの発展を論じている。
インフラは大都市を中心として、 徐々に、徐々に整備されつつあるブロードバンド環境であるが、 その上でやりとりされるコンテンツは未だ十分用意されているとは言いがたい。 かつてインターネットがブームであったころ、 「インターネットはからっぽの洞窟」という本が出版された。 ブームを通り越して社会的な情報インフラとして認められつつある現在では、 ネット上の情報は玉石混淆で有用な情報を得るのも逃すのも情報リテラシ次第であり、 けして「からっぽの洞窟」ではないことが理解されつつある。 しかし、ことブロードバンドコンテンツに関しては今のところ未知数だ。
デジタルコンテンツと著作権
ブロードバンドコンテンツの発展を阻害しているひとつの大きな理由は、 著作権ビジネスの非デジタル化である。 ブロードバンドを活かすデータ量の多いコンテンツといえば音楽や映像だが、 これらに関しては著作権者への還付のしくみが旧態依然としたまま急激なデジタル化を迎え、 その結果として様々な問題の解決の糸口が見つからず混乱している状態にある。 記憶に新しいところではナップスターの問題が端的な例といえる。
著作人格権は揺るがないにしても、 著作権ビジネスは早晩、瀕死の状態にさらされる日が来るおそれがある。 メーカーと共同で、電子認証やコピー防止機能の研究開発が盛んに行なわれているが、 イタチゴッコとなる可能性は否めない。 著作物自体がデジタル化され簡単にコピーができるようになっていることを著作権管理団体は素直に受け止め、 新たなビジネスモデルを追求すべきではないか。
ソフトウェアの著作権問題
パッケージソフトウェアも同様な状況にあり、 一部ソフトウェアメーカはASPという形式で生き残る道を模索している。 また製品自体は安価もしくはオープンソースソフトウェアとして提供し、 その製品を利用したシステムインテグレーションや、 その製品に対するサポート業務で対価を得ようというビジネスモデルに切替えつつあるベンダも増えている。
複製防止機能などのセキュリティは利便性とトレードオフの関係にあり、 サービスが悪くなるリスクを本質的に備えている問題が残る。 ダウンロードした音楽データをバックアップできない問題や、 パソコンの構成を変えたらソフトウェアが使えなくなるライセンスの問題など、 ユーザを軽視した解決法もまかり通っている事実については甚だ残念でならない。
なお蛇足ながら念のため付け加えておくと、 本稿は違法コピーを推奨しているわけではない。 法律の在り方まで含めて改革が必要であろう、という主張はしているが、 これまで築きあげてきたシステムを土足で踏みにじるマネはしてはならない。 著作権管理団体は既得権の上にあぐらをかいていてはいけないし、 ユーザはデジタルコンテンツに関する著作権の在り方を真摯な態度で問うべきであろう。
発信者になろう
ところでブロードバンドコンテンツを語るとき、 著作権ビジネスの問題を避けて通れないのは何故か。 それは現在のところブロードバンドコンテンツを作ることが一般にはなかなか難しいため、 プロの作品をダウンロードあるいはストリーミングで受信することが、 話題の中心とならざるを得ないからである。
しかし現状のインターネットを見つめ直してみよう。 ふだん一般的なユーザが接する情報は何だろうか。 それはプロが提供する情報であることも多いが、 その他にも個人のホームページを訪れることも一般的だろう。 そして最もプライベートな情報のやりとりはメールだ。 これらはほとんどの場合、著作権ビジネスと無縁のコンテンツである。
ブロードバンドネットワークを盛り上げるためには、 個人自らブロードバンドコンテンツを発信できる環境が重要と考える。 また著作権の在り方も再検討する必要があろう。
最後に、ブロードバンドネットワークの発展のために解決すべき課題を挙げておく。 技術的な話題、とくにふたつめの話題についてはまた別途、検討することとしたい。
- デジタル時代に適応した著作権に対する考え方の検討と既得権益の解体
- ブロードバンドコンテンツを一般ユーザが容易に作成できるような技術開発
- 上下非対称ではない真のブロードバンドネットワークインフラの整備
本文中のリンク・関連リンク:
- FTTHの先駆けとして、ユーザに福音をもたらすか? 有線ブロードネットワークス社
- 総務省がまとめた、平成13年度版の 情報通信白書
- 「カッコウはコンピュータに卵を産む」の著者による啓蒙書、「インターネットはからっぽの洞窟」
- 社会問題となった ナップスターのホームページ(英語)
- 著作権管理団体のいろいろ