孤立した研究者の苦悩
専門能力をもつ人材が一ヵ所に集まり、 共通目標に向かってチームとして活動することで、知的生産性を高める。 これも、多くの企業で実践されてきた立派なナレッジマネジメントの一つと言えるだろう。 ITの研究開発でもチームワークは欠かせない。 独創的なアイディアを考案するにせよ、泥臭い作業を積み重ねるにせよ、 フェイス・ツー・フェイスの協調作業が新たな突破口を開く。
ところが、日本の大学ではこのチームワークによる研究開発が案外難しい、という話を聞く。 ITブームのなか、多くの大学に設置されたIT関連学科に研究者がばら撒かれたため、 一つの大学に優秀な研究チームを育てるのが難しくなっているという。 そのため、理論的なペーパーマシンの構想まではできても、 肝心のデモンストレーションがない、という中途半端な成果しか出てこない。 研究成果がそうだと、優秀な学生も企業からの研究生も集まり難くなり、 いつまでも研究チームが充実しないという悪循環に陥る。 これでは、何度か指摘しているような、 大学が起点となったITベンチャーやIT産業集積の形成などは、ずっと絵に描いた餅でしかない。
避けられない大学改革
こうした問題意識に立つと、 経済財政諮問会議に提起されている大学改革案は、一つの問題解決の方向を提示していると言えよう。 分野毎のトップ大学に重点的な資源配分を行い、研究水準を引き上げようという提案だ。 「地方大学の切り捨てにつながる」等々の批判はあるものの、 IT研究の拠点的な大学を育成するには、 従来のような結果平等主義による資源分散は見直すべき時期にきている。
競争的資金の活用が原則
トップ大学に資源を重点配分するにしても、 予め決められた大学に予算をつける結果不平等というのも理解は得難い。 おそらく、競争的研究資金を分配する制度設計に工夫がいる。
例えば、米国のDARPA の予算配分の考え方は参考になる。 実は、DARPAの研究資金は多くの米国大学にとっても「敷居が高い」と言われている。 具体的なデモンストレーションを含む技術成果を要求するDARPAの場合、 提案の事前評価の段階で研究チームの実績や実現可能性を重視する。 その結果、自然とDARPAの研究資金はIT分野で実績のあるトップ大学に重点配分されることになる。 ただ、DARPAの資金が一部大学に完全に囲い込まれているかというとそのようなことはなく、 ITの特定分野で新たな実績を重ねた研究チームがあればその提案は採択される。 そうした大学が新たな実績を積めるのは、DARPAとは別に米国には、 幅広くユニークな提案に資金を供給するNSFなどの研究開発プログラムがあるからだ。
健全な競争と適正な評価
日本でトップ大学に重点配分するというと、 実は特定大学に無批判に資金を集中させることになりはしないか、ということを心配する。 あくまでも提案を評価し、良い提案に資源を配分するという原則が必要だ。 そうした競争のなかで適正な評価を与えられた大学こそ、 その評価に注目した学生や産業界から優秀な人材が集まり、 真の意味でIT研究の拠点となる資格が与えられる。