eラーニングと大学

昨年あたりから、eラーニングという言葉をよく聞くようになった。eラーニングとは、 CD-ROMなどの電子メディアやWebなどを利用した学習を指す。 代表的な活用例は、資格取得のための教材提供や企業研修での利用だが、 eラーニングの波は大学にも押し寄せている。

インターネット上の大学

日本でいち早くインターネット上の大学実現の試みを始めたのは、 SOI(School Of Internet) であろう。 SOIでは、1997年からインターネット上で講義ビデオや資料の無料公開を行っている。 SOI単独での単位取得などはまだ実現されていない。 しかし、慶應大学などに所属する学生は、正式な授業として受けることができる。

信州大学は、来年度から工学部に バーチャル大学院 を新設する。 昨年11月の大学審議会 でインターネット等を活用した授業の見直しが行われ、実現可能となった。 この大学院は、名前に“バーチャル”と付くが本物の大学院である。 インターネット環境さえあれば、一度も通学することなく必要な全ての単位が取得できる。 講義の配信方法や詳しい募集要項などは、これから発表されていく予定だ。 特に、時間の自由が利かない社会人の期待は大きく、 同学部の掲示板 では活発な議論がなされている。

インストラクショナルデザインの重要性

ある科目やテーマについてどう教えるか。 日本では、“こんな感じ”という漠然としたものがあるだけで、講師(教師や教授など)に一任されている。 内容を理解できなければ、それは大抵学生のせいにされる。 これに対して、講師の教え方が適切であったかについて咎められることはほとんどない。 学生アンケートなどを実施している大学もあるようだが、明確な指標がないので評価は難しい。 すべては講師の経験や能力、良心にかかっており、言ってしまえば何でもアリである。

どう教えるかを理論として捉えたのが、インストラクショナルデザインである。 インストラクショナルデザインは、 誰が教えても一定の品質を確保できる教育の設計と提供を目指した方法論である。 アメリカでは教育工学の一つの課題として既に定着している。 しかし、日本ではインストラクショナルデザインという言葉にまだ馴染みがない。

インターネット上に講義ビデオだけを提供しているうちは、 インストラクショナルデザインの重要性は感じられないかもしれない。 講師が今まで通り何とかするからである。 しかし、資料や教材のみを提供するとなったらどうだろうか。 講師の姿は表から消え、気のきいた話術でのごまかしも効かない。 ばらばらの教材がインターネット上に乱立してしまう前に、 インストラクショナルデザインを確立すべきである。

よりよい教材のかたちを目指して

マサチューセッツ工科大学(MIT)は、MITで行われているほぼ全ての講義の内容を無料で公開する MIT OpenCourseWare プロジェクトを発表した。 このプロジェクトは、今後10年間をかけて実施される。 MITが公開するのは、講義そのものではなく講義に関する資料なので、単位取得などはできない。 しかし、全講義しかも無料という2点は驚くべきものである。 それに加えて講義の内容と言われているものが、どのようなかたちで整理され提供されるのかにも注目したい。 オープンソース化のよさが大学の講義にもあてはまるのか、非常に興味深いところである。