サイバースペースの「地図」と「カタチ」

私たちが普段 WEB を閲覧して、 ハイパーリンクでつながれたサイトを何の気なしに次々と辿って行くとき、
実際には座ってパソコンを操作しているだけなのだが、 まるでどこかを歩き回っているような気がすることがある。
そこには、近い/遠いといった距離感や、お馴染の場所、 右も左もわからない場所といったような旅の感覚に似たものがある。
例えば、普段訪れるポータルサイトはお馴染の場所だし、 いくつかのリンクをたどってようやく到達できるところは、
自分にとっては辺境の地である。

旅をするには地図が必要である。しかし、 ハイパーリンクで構成されたWWW のネットワークというものは、
そもそもどのようなカタチをしているのだろうか。

サイバースペースの「カタチ」

WWW のネットワークの「カタチ」は、 それぞれのサイトが好きなようにリンク付けした結果として現れるものである。
このため、全体としては、混沌とした状況になっていると考えがちであるが、
むしろある物理的な秩序を示しているのだということが次第にわかってきた。

例えば、 Alta Vista、IBM、Compaq の研究者らによって明らかにされたことでは、 ハイパーリンクで結ばれた
WWW 全体のネットワーク構造は、 蝶タイのような形状にたとえることができるのだそうだ。
コア(強連結)と呼ばれる中心部分(全体の30%)は、 互いにリンクが絡み合った密集地帯で、
蝶の羽に相当する部分(それぞれ24%)は、一方には、 コアへのリンクがはられているサイト、また、もう一方には、
コアからリンクがはられているサイトが位置するのだという。 また、これとは別に、
リンクだけではたどり着けない孤島も全体の10%近く存在するらしい。

サイバースペースの「地図」

蝶タイとして例示される「カタチ」は、非常にマクロ的なものなので、 世界はどのような形になっていて、どのくらい大きいのか、
といったことを感覚的に把握することはできるが、 隣街にどんな店があるか、といった日常的なことには役立たない。
私達が普段歩きまわるのに必要なのは、さらに詳細化された「地図」である。

Atlas of Cyberspaces というサイトでは、 サイバースペースのさまざまな「地図」
を美しいグラフィックスで見ることができる。 ここで見られるような「地図」は、 実際の店が立地条件にこだわるように、
サイト管理者にとっては、アクセス数を増やす上で、重要な指針となるだろう。
「地図」の中心近くは、明らかに人通りの多いメインストリート(コア部分)である。

また、この広大な空間を旅するとき頼りになる検索エンジンは、 こうした「地図」を利用して私達をナビゲートしてくれる。
一般に(ロボット型の)検索エンジンでは、アクセス数が多いページや、
被リンク数の多いページを重要なページであるとして検索結果の上位にランキングする。 最近、急成長を遂げている検索エンジン
googleでは、
さらにこれに加えて、 被リンク数の多い重要なページからリンクされているページは、 より重要度が高いとして重み付けを行っている。
一見、再帰的な定義に思えるこの基準の収束点は、詰まるところ、 上記のコア部分に帰着する。
どのサイトが検索結果として現れるかは別として、私達は、 いつも「カタチ」でいうところの中心部へナビゲートされているわけだ。

変わりゆく「地図」と変わらない「カタチ」

ショッピングモールや情報提供サイトなどでは、 アクセス数をできるだけ増やすために、
できるだけメインストリートに存在することが望ましい。 コアの周辺では激しい競争が起っているので、入れ替わりが激しく、
訪れる側からすれば、1年前の「地図」では到底使いものにならない。 1年前の検索結果より、
今検索した方が有用なサイトが見付かることは経験的に明らかだ。

現実の街では、メインストリートに並ぶ店の数には限りがあるが、 サイバースペースでは、このような物理的な制限は存在しない。
このため、ほとんどすべてのサイトがコア部分に存在することすら、 不可能ではないように思われる。
しかし、どんなにたくさんのサイトがひしめきあっていても、 私達が見ることができるサイト数というのは必然的に限られている。
このため、相対的な関係によって規定される「カタチ」は、 おそらくそれほど大きく変わるものではないだろう。

サイバースペースとリアルスペース

現実の都市では、それぞれの栄枯盛衰はあるにしても、 全体的な規模分布というのは、 ベキ乗則 と呼ばれる驚くほど簡潔な普遍的法則によって支配されていることが知られている。
このような現象は、 ネットワークの複雑さがある臨界を越えたときに生じる自律的な特性としても 説明されている。 ハイパーリンクという、 とてつもない移動手段を持ったサイバースペースは、
複雑なネットワークとして日々進化を遂げ増殖しているが、 その全体的な「カタチ」というのは、
実際の都市やその中の構成と意外な類似性を持っているのかもしれない。