地域に特化したASPの登場
多種多様なASPのなかで、ある地域にターゲットを絞ってサービスを提供する「地域ASP」も登場してきた。例えば、鹿児島建設市場は、鹿児島市近郊を中心として、施主、工務店、建材店が参加する地域の住宅建築の共通プラットフォームを提供している。この市場に参加する企業は、当該サイトの上で他社と連携しながら設計、建材の受発注、現場の施工管理・建材の配送管理といったプロセスを行う。筆者には、このようにある地域の企業が協業する場を提供する地域ASPには、今後、そうした地域独自の産業コミュニティを醸成する一つの推進要因になっていくのではないか、という期待がある。
望まれる地域産業集積
日本でも特定地域を基盤とした産業集積を強化することの必要性は、かなり以前から指摘されていた。しかし、ハイテク産業が集積しているシリコンバレーのように、ある地域のなかで多様な専門企業がオープンな企業ネットワークを形成し、知識や技術がそうした地域コミュニティのなかに蓄積されるようなモデルは、まだまだ日本では未成熟な段階にある。
IT革命で重要性を増す「地域」
インターネットが普及すれば、企業の連携を阻む空間的な制約も解消し、むしろ地域的な産業集積の役割は低下する、という見方もあり得るが、実際にシリコンバレーなどでおきたことは逆である。ITを含め技術が高度なものになればなるほど、そうした技術を融合するイノベーションには、より「人的な接触」が必要になってくる。技術開発に必要な情報や知識をネットワーク上で共有しようとする「ナレッジマネジメント」が進みつつあるが、こうした知識共有も多くの場合は「人的な接触」を前提としていることが多い。この「人的な接触」を超えるには、高度なコミュニケーション技術の他に、どうしても知識表現の標準的プロトコルが必要になるが、これはたやすく解決できる問題ではない。
ボトムアップ型のコミュニティ作り
地域レベルの産業集積を育成しようという政策的な試みは現在も多い。しかし、トップダウンに行う取組みだけでは、所詮限界がある。地域の企業が、具体的なビジネスのなかで協業し、そのなかに大学や行政サービスといった支援機能も巻き込まれていく、というボトムアップ的な形成シナリオの方が遥かに自然である。ただ、そうした草の根的な取組みは筆者も多く見てきたが、参加者が途中で息切れしてしまう例が多かったことも事実だ。地域のなかで一つのビジネスネットワークを作ろうというASPは、「人的な接触」を補完し、ボトムアップによるコミュニティ作りの場を提供してくれる。100%の特効薬ではないが、カンフル剤としての効能は小さくない筈である。