ブルートゥースが見えてこない。 今年に入り、短距離ワイヤレス接続の本命はブルートゥースとあれだけ騒がれたにも関わらず、 さっぱり勢いが感じられない。 次世代の長距離ワイヤレス接続である第三世代携帯電話 IMT-2000 (W-CDMA) が2001年5月にサービス開始を控えているのに比べ、トーンダウンしているようにすらみえる。 発売された製品は東芝のワイヤレスモデム位だし、 試作品ですらソニーのワイヤレス・へッドフォンなど、数える程しか見当たらない。
意外に進まないブルートゥースの製品化
ブルートゥースとは、簡単にいえば、無線版 USB のようなものである。 通信距離は 10m、通信速度は1Mbps。 いろいろな機器を簡単にワイヤレス接続できることが最大の特長といってよい。 1対1でも構わないけれど、 いろいろな機器に近づけるだけで接続できること (プラグ・アンド・プレイ)が、他のワイヤレス通信方式と違うところだ。 プリンタやキーボードなどのパソコン周辺機器はもちろん、 携帯電話や自動販売機、家電製品、自動車など、 あらゆる機器にブルートゥースを組み込もうとしている。
だが、どんな機器とでも通信できるという最大のメリット、 専門用語では「相互運用性(interoperability)」というが、 実はこの相互運用性が普及の妨げになっているのは皮肉な話だ。 相互運用性を確保するには、ブルートゥース標準化団体の認証を得る必要がある。 どうやらこの認証を受けるのが一苦労どころではないらしい。 以前ならやたらと厳しい汎用的な規格を作ると、 独自規格に走るメーカが必ず登場したものだが、 ブルートゥースは今のところ大丈夫のようだ。
もう一つの問題はブルートゥースのチップ価格がまだ10ドル以上と高いことである。 製品価格に換算すれば数千円増しになるだろう。 いくつも周辺機器をつないだりするには高すぎる。 来年には5ドル以下になるという予測もあり、期待したいところだ。
人と場所・物とのコミュニケーション
そんな事情もあり、ブルートゥースはワイヤレス・へッドフォンや 携帯端末(PDA)とパソコンの同期などの使い方が、まずは主流になると言われている。
しかし、つまらないではないか。 ワイヤレス・プリンタやワイヤレス・キーボードは確かに便利だけれど、 それだけのものである。 「短距離」「超小型」「低価格」という通信方式に、 どれだけのインパクトがあるかを考えてみて欲しい。
ブルートゥース対応 PDA を持ち歩けば、 オフィスでも街中でもその場所、その店、その人の情報を、 見たり、注文したり、交換したり、いろいろな可能性が広がる。 携帯電話で人と人とのコミュニケーションが変ったように、 ブルートゥースでは人と場所、物、人とのコミュニケーションが変るはずだ。
ブルートゥース端末の本命は携帯電話
ブルートゥースの短距離ネットワークをピコネット(piconet)と呼ぶ。 必要なときに、必要な機器だけが参加する一時的なネットワークである。 例えば、切符を買うときには、 目の前の自動販売機と自分のブルートゥース端末だけのネットワークができ、 用が済めば消えてなくなる。 店にいけば、商品タグとブルートゥース端末のネットワークができ、 商品情報を見るだけでなく、最後にレジを通れば価格を合計して支払いも済ませられる。
つまり、人々は少なくとも一つはブルートゥース端末を持ち歩かねばならない。 すると本命が携帯電話であることは明らかだ。 モバイル機器が成功する条件はいくつかあるが、 入出力デバイス、通信、サイズ、電源がとても重要だ。 携帯電話には、すでに液晶ディスプレイ、マイクロフォン、スピーカ、ボタンという 入出力デバイスがあり、インターネット回線も持っている。 サイズは十分小さく、電源も他のモバイル機器に比べて長持ちする。
アジアや欧州では来年にも、 ブルートゥース対応携帯電話が発売される。 日本でも各社が開発を急いでいるようだが、 具体的な発売予定はまだ明らかにされていないのが残念だ。
どこでもコンピュータにむけて
ブルートゥース対応の街角コンピュータはアイデア次第で面白いものがいくらでも考えられる。 例えば、店先で安売り情報を流しておけば、 通りかかった客だけの携帯電話に表示することができる。 そうすると、客の側としてはそれではうるさいので、 欲しいもの特に安いものだけを選んで受け取るようになるだろう。
当初はゲームが重要な役割を果たすかもしれない。 各自のゲームボーイで自分のモンスターを育て、 ゲームセンターに集まって大画面のバトルフィールドで戦う方式は ブルートゥースに適している。
これがブルートゥースで「どこでもコンピュータ」 (ユビキタス・コンピューティング)の世界である。 インターネットは誰でもどこにいても同じ情報を共有できることが素晴らしいのだが、 ブルートゥースそしてどこでもコンピュータが登場すると、 その場所その時にしか手に入らない情報の価値が再認識されるだろうか。
本文中のリンク・関連リンク:
- ブルートゥース
- ブルートゥース公式サイト (英語)
- 東芝 Dynabook の ブルートゥースワイヤレスモデムステーションとPCカードオプション
- スエーデン Anoto 社の インテリジェント・ペン は、ペン先の超小型カメラで筆跡を画像認識し、ブルートゥース経由で文字情報を パソコンや携帯電話に送信する (英語)
- iモードとローソンの提携では、将来的に携帯電話と店内のマルチメディア端末 をブルートゥースで接続したサービスを視野に入れている
- キヤノンはデジタルカメラで撮った写真をワイヤレス接続で携帯電話やプリンタに 送信する ブルートゥース対応製品を開発中である
- エリクソンは世界初の ブルートゥース搭載携帯電話を発表した
- モトローラの ブルートゥース対応デバイスは (英語)
- ユビキタス・コンピューティング
- ゼロックスが提唱した「ユビキタス・コンピューティング」は、 どこでもコンピュータを実現する概念だが、最近では パーベイシブ・コンピューティング(IBM)などとも呼ばれている
- ユビキタス・コンピューティングの未来像は 大阪大学塚本氏の 「モバイル先進アプリケーション」 (bit 1999年1月号)が面白い