家庭からインターネットの情報をより入手しやすくする手段として、ブロードバンドアクセスが注目されている。CATV や xDSL などによる高速常時接続により、欲しい情報をいつでもすぐに引き出せるというシナリオだ。
だが、この家庭向けブロードバンドアクセスが、新たな地域格差(ブロードバンド・デバイド)を日本国内にもたらそうとしている。なぜならば、今すぐにブロードバンドアクセスが利用可能な家庭は、ごく一部の限られた地域のみだからだ。
家庭向けブロードバンドアクセスの現状
CATV は元来、限られた地域への TV 番組の供給が主であった。そのため、ブロー ドバンドアクセス手段として脚光を浴びた今でも、サービス地域をあまり拡大で きない。サービス地域の拡大には光ケーブルなどの敷設が必須になるが、経営規 模が小さな CATV 会社が多いため、急にはサービス地域拡大とはいかない。特に これからの数年は、デジタル放送への対応に設備投資を強いられるため、財政的 にはかなり厳しい。現在の「一地域一社の原則」を取り除いて市場原理を導入す るなどの荒療治をしない限り、この状況はあまり変わりそうもない。
xDSL の方が全国展開が容易かもしれない。家庭向けの普通の電話回線を利用す るので、サービスを開始しようと思えば日本全国どこででも技術的には可能性がある。ただし、試験運用を含めた現在のサービス状況を考えると、「本当に普及するのか?」と疑問符を付けざるを得ない。東京23区や大坂など、一部の地域でサービスが開始されているのみで、他の主要都市でさえなかなかサービスが開始されない。収益性などを考慮すると大都市からスタートするのは仕方がないとしても、地方の小さな都市に xDSL サービスが行き届くのはいつになるのかと、先行きがとても不透明である。お隣の韓国ではxDSLが爆発的に普及しているようだが、日本では光ケーブルによる FTTH 計画の悪影響のせいか、xDSL サービスは完全に立ち遅れた。
FWA (Fixed Wireless Access, 固定無線アクセス) などの無線技術を活用したブ ロードバンドアクセスも、あまりはかばかしい成果をあげていない。鳴り物入りで早期サービス開始をうたったスピードネットも未だに実験中であり、サー ビス開始は来春以降とのことである。
日本のIT戦略の目指すもの
先日(11月6日)、「IT戦略会議」から基本戦略の草案が提出された。IT戦略会議は、日本の「IT立国」のための戦略を検討するために、今年の7月に産官学のそうそうたるメンバーを集めて組織された。今回提出された基本戦略では、特に家庭向けのブロードバンドアクセスのためのインフラ整備に関して、具体的な年限や目標数を掲げている。
この基本戦略でさらに注目に値するのが、推進すべき方策として「情報格差の是正」を盛り込んでいる点である。国策として税金を投入するのだから、民間企業がサービスを提供しにくい「条件不利地域」を優先したサービス提供を是非とも実現して欲しいものだ。
米国では収入格差によるブロードバンド・デバイドが問題になるという調査報告がでているが、日本ではそれに加えて地域格差が大きな問題となるだろう。世界との距離を縮めたインターネットが、地域格差を拡大させるようなことにならないことを祈るのみである。
本文中のリンク・関連リンク:
- IT戦略会議
2000年11月6日の第5回 IT戦略会議・IT戦略本部合同会議で出された「基本戦略(草案)」では、家庭向けブロードバンドアクセスのインフラ整備に関して次の目標を掲げている。 -
- 5年以内の目標
- 少なくとも 3000万世帯が高速インターネットアクセス網に常時接続
- 少なくとも 1000万世帯が超高速インターネットアクセス網(30〜100Mbps)に 常時接続
- 1年以内の目標
- すべての国民が極めて安価にインターネットに常時接続
- 5年以内の目標
- 米国調査会社ガートナー・グループの CEO による「デジタル・デバイドと米国社会」(英語)
これによると、米国のブロードバンド・デバイドは収入差が問題だとしている。 - CATVによるブロードバンドアクセスサービスを提供するジュピター
- ADSLサービスを提供する東京めたりっく通信とイー・アクセス
東京および大阪からサービスを開始しており、現在少しずつサービス地域を拡大している。 - 無線技術を用いたブロードバンドアクセスサービスを提供するスピードネット