多様化する決済手段

物を買うときはお金を払う。サービスを受けてもお金を払う。 お金はお金。だが、一口にお金といっても払い方はさまざまである。
わが身を振り返ってみると、 現金はもちろんだが、プリペイドカードやクレジットカードで払うことも多い。
遠くに払うなら、口座振替や銀行振込がポピュラーだが、 現金書留や郵便為替を使うこともまれにある。
私はなじみがないが、小切手を使われる方もいるかもしれない。 最近では VISA Cash
などの電子マネーを使用している方もいるだろう。

J-Debit の登場

こうした多様化した決済手段にさらに新たな方法が加わった。 デビットカードサービス (J-Debit)である。
約1年の準備期間をおいて2000年3月に本格的に展開を始まった。J-Debit では、 日本デビットカード推進協議会
に加盟している銀行や郵貯のキャッシュカードで、 そのままショッピングの代金を支払うことができる。
今年の9月末時点で、すでに約15万店舗で使えるそうだ。 コンビニで J-Debit マークを見かけた方も多いだろう。

なんといっても手持ちのキャッシュカードが使えるメリットは大きい。 国内の使用可能なキャッシュカードは 3億枚を超えるそうだ。
これはクレジットカードを上回る枚数である。 欧米ではすでに一般的な決済方法として日常的に使われている。

「クレジットカードと競合するサービス」というような見方もある。 だが、クレジットカードと違い、お金を借りるわけではないので、
信用取引に対して抵抗のあった層にも広がる可能性がある。 また、利用局面が広がれば、
クレジットカードを用いるほどでもない少額の現金決済が、 デビットカードに置き換わっていくことも考えられる。

ただ、問題もある。現在の規格では、海外との互換性がないのだ。
欧米のデビットカードがクレジットカードと同じ規格を採用しているのに対し、 J-Debit では独自規格が採用されているためだ。
これは歴史的経緯もあるのだが、改善が望まれる点である。

キャッシュカードと免許証を同時に紛失したり、盗難にあった場合など、 口座残高丸ごとの現金を落したに等しいともいえる。
こうした危険性は、もちろん従来からあったわけだが、 ネット決済にもデビットカードが使用されるようになると、
物理的に紛失していなくても、カード番号と暗証番号だけで 悪用されてしまう可能性もあるわけである。

携帯電話で缶ジュース ?

決済はさらに多様化する方向だ。自動販売機の前で、携帯電話をピピッとやると
ジュースが出てくる、こんなことも近いうちには実現しそうだ。 既に、フィンランドの通信業者であるソネラは、 モバイル・ペイの名称で、 昨年より携帯端末を用いた決済システムの実験を開始している。
この実験での実際の課金は、電話料金と同時に決済される仕組みだが、 モバイル機器間のデータを交換するための規格 Bluetooth
を用いた電子マネーによる方法も開発中である。 これを用いれば、 電子マネー(ICカード)の組み込まれた携帯電話と自動販売機が、
直接無線でデータ交換を行ない、 物品を購入することができるようになる。

また、富士通、シティバンク、DDI (現 KDDI)が 今年の12月から開始する決済サービスでは、
決済するクレジットカードやデビットカードの情報をあらかじめ登録しておいて、
携帯電話から、商品コードを打ち込むだけで、決済を行なうことができる。 カード番号や有効期限などの情報を打ち込む必要がないので、
セキュリティ上の観点からも好ましい仕組みである。

また、非接触 IC カードを使った高速道路の料金支払いシステム (ETC : Electronic Toll
Collection System) も開発が進められている。 これを用いれば、高速道路の料金所で立ち止まることなく、
通過するだけで自動的に料金の徴収が行なわれるため、 渋滞緩和などにも貢献することが期待されている。

たかが決済、されど決済

多様化しつつある決済方法は、少なくともわれわれ消費者にとっては、 選択の幅が広がるという意味で、望ましいことではある。
一方で、決済処理を行なう金融機関の闘いも非常に熾烈になってきている。

決済業務は、公共料金の自動引き落としなどに見られるように、 従来は単なる手続代行業務であったが、最近では、
イトーヨーカ堂やソニー、 伊藤忠などが相次いで決済銀行業務への参入を表明しているように、
決済業務自体が今後のビジネス展開のコアとして考えられつつある。 決済機能を持つことのメリットの一つは、
顧客の購入履歴情報を収集できるということだろう。 個人を認証する電子的決済手段であれば、
誰がいつどこで何を買ったかがデータとして蓄えられるということだ。 これはいうまでもなく重要なマーケティング情報となる。
消費者サイドから見て、このような購買履歴が蓄えられることを嫌う向きもあろうが、
反面、自分が欲しい商品やサービスの情報をタイムリーに知らせてくれたり、 購入頻度にしたがって、特典が付加されたりすれば、
消費者の利便性も増すといえるだろう。

われわれ消費者としては、そうしたこともふまえて、 それぞれの特徴やメリット、デメリットを見極め、
より便利でスマートな決済手段を選択していきたいところである。 もっとも、どんなにスマートで先進的な決済手段を用意してみたところで、
先立つものがなければ、話にならないのだが …。