単純でない役割分担
研究開発に関してしばしば官民の役割分担をどう考えるべきか、という議論がなされる。例えば政府主導で基礎研究を強化すべき、という指摘は分かりやすい。企業が基礎研究に積極的に取組んだ時期もあったが、特に製品ライフサイクルの短縮化が顕著なIT分野では、企業は製品開発に忙しく基礎研究にまで手が回らなくなっているのが現状だろう。自ずと政府に期待するところは大きくなる。
一方、実用的な応用研究や製品開発は民間側の役割とする議論もあるが、こちらはそう単純に割り切れない所がある。民間レベルではリスクが高く、政府主導で実用的な応用研究まで手がけた方が合理的な技術分野があり得る。そうした研究開発に大学や企業も参画することで、研究コミュニティ全体のポテンシャルが強化される。良く言われる通り、コンピュータ自体がその典型である。1970年あたりまでは、米国政府がコンピュータ開発の主要なスポンサーであり、また開発されたコンピュータの先進ユーザともなって、まさに技術開発のフルサイクルをサポートしていたのである。MITやスタンフォード大学の周辺にハイテク産業集積の形成が始ったのも、こうした政府(軍)主導の研究開発がきっかけになっていた。
今後のIT研究開発と政府の役割
研究開発プログラムの成果を政府自体が利用することは、研究開発の実効性を高める重要なポイントになっているように思う。誰が成果を利用するのかハッキリしない研究開発では、目指すべき目標が曖昧になり、参加する企業のインセンティブも弱く、大学もそこで実用的な研究開発まで踏み込もうとはしなくなる。これは、残念ながら日本の多くの研究開発プログラムで実際に起ってしまっていることでもある。
かといって、米国の国防総省がユーザとなるようなITの研究開発を日本で進めよう、などという話はなかなかし難い。この議論はいつもこのあたりでつまづいてしまう。
ITの国家戦略というならば。。。
こうしたなか政府では、情報通信技術戦略本部やIT戦略会議を設置し、ITの国家戦略を構築するための議論をスタートさせた。ミレニアム・プロジェクトでは、情報化、環境対応、高齢化を戦略分野として、省庁が連携する技術開発プロジェクトを推進するという。
ここまで取組むのであれば、21世紀に向けて民間だけでは取組み難い国家プロジェクトを構想し、そこで政府自身がユーザとして最後まで成果を追求するような研究開発プログラムをIT分野で打ち立てることを期待したい所だ。それが、高齢化社会を支えるものなのか、循環型環境社会を支えるものかはこれからの議論である。筆者自身は21世紀に向けてエネルギーや宇宙開発といった分野の重要性も改めて議論して良いと思う。こうした分野で、民間では到底手が届かないITのテーマがあるならば、それは政府主導で進める価値のあるものだ。