コンピュータに人の心は理解できるか

ワープロを使っていると腹が立つことばかりだ。 メニューが多すぎて、欲しい機能がどこにあるのか分からない。
やっと見つけて実行すると、思った通りに動かない。 あげくの果てに画面が固まり、リセットする羽目になってしまうことすらある。
イライラはつのり、ブツブツ独り言をはじめたり、パソコンに当たり散らす人もいる。

困ったときが、助けて欲しいとき

そんなユーザのために「お助けキャラクタ」を用意しているワープロもある。
ご存じ(?)マイクロソフトのオフィス・アシスタント「イルカのカイル君」だ。
最初は愛敬もありなかなか可愛いけれど、二度目からはうっとうしい。
それはこちらの都合は顧みず、いつも同じ動作を繰り返すだけだからである。 もし人間の秘書なら即座にクビだ。

「ユーザが困っている」ということをわかってくれて、 困った時だけ助けて欲しいというのは高望みなのだろうか。
実は「困った」などのユーザの心理状態を理解しようとする研究がすでに始まっている。

表情から感情を読み取る

心理状態を測るにはいくつか方法がある。 私たちは表情や声の調子で相手の感情を読み取っている。 心理学者によると人間には、
万国共通の6つの基本的な表情「怒り」「驚き」「嫌悪」「笑い」「悲しみ」 「恐れ」があるという。 ところが、ビデオカメラで
6つの表情を読み取るだけでも、まだまだ実用化にはほど遠い。
歌舞伎役者のように大げさに作った表情なら、なんとかわかるというレベルである。

笑いだけでも、「大笑い」「苦笑い」「作り笑い」などいくつもある。
この分では困った顔をしてもコンピュータは当分の間わかってくれそうもない。
けれど、表情を読まれる心配はないともいえるかもしれない。

声の震えでうそ発見

心配という意味では、声だけで判定できる うそ発見ソフト「トラスター」はなかなか気がかりな存在である。
声の震えぐあいでストレスや混乱、興奮の度合いを測定し、 嘘をついているかどうかがわかるらしい。 このトラスターを使った音声心理分析サービスもある。 例として、会社の備品を失敬した社員にさりげなく話を振り、
隠しマイクで録った音声テープの分析例が載っている。かなり恐い話だ。

こんなものが流行りだしたら、 ビジネスの交渉に使ったり、恋人からの電話を分析したり、
疑心暗鬼がつのるばかりになるのだろうか。いや、多分そうはならない。 「うそ発見器を欺く法」とか「アンチうそ発見ソフト」が続々登場して、
結局うそ発見ソフトは使いものにならないと思う。

ご機嫌を伺うコンピュータ

もちろん、もっと前向きにユーザの心理状態を役立てようという研究もある。 マサチューセッツ工科大学(MIT)の感情コンピューティング・グループでは、 脳波や脈拍、息遣いなどを測るさまざまなセンサを取りつけたウエアラブル・ コンピュータを開発している。

その中に「ガルバクティベーター」という手袋がある。
手のひらの皮膚電導率の変化を測り、興奮すると赤いLEDが灯る仕掛けだ。 精神安定の自己トレーニングに利用したり、
映画の試写会でどこで観客が興奮するかを調べたりするのに使えるそうだ。 他にも、 イヤリングやブレスレット、果てにはサンダルまでセンサにして、
ユーザの心理状態を読み取る試みをしている。

今のコンピュータが使いにくい理由の一つが、 ユーザのことをちっとも分かってくれないことだ。
困っていたり、怒っていたり、退屈していたりしたときに、 コンピュータがユーザの気分を汲み取ってくれれば、
今よりもっと心穏やかに付き合えるのではないだろうか。 『ご機嫌を伺うコンピュータ』とでもいうべきか。
近未来型コンピュータの一つの方向であることは間違いない。 まずはペットロボットあたりに搭載されそうな予感がする。