パソコン苦手組とIT

インターネットの普及が社会に与えたインパクトは良くも悪くも非常に大きい。 しかしITによる社会の変化を実体験として感じない人々もまだまだ多い。 「パソコンは難しくて…」と敬遠しがちな方々だ。いわゆるパソコン苦手組(※) とされる人々である。

※ 「情報弱者」という言葉を使うこともある。 しかし否定的な語感を伴う言葉なので、本文では「パソコン苦手組」とする。

情報技術は敷居が高い ?

情報技術はいまや百花繚乱の時代を迎え、 新しい製品やサービスが次から次へと現れている。 それらはより豊かな日常を約束する(少なくとも、ほのめかす)ものだが、 なにしろ今までに体験したことのない操作を要求するなど、 いろいろと取っつきにくい要因を抱えている。 適応力が高く好奇心旺盛な若者ならばともかく、 なかなかフォローしていくのも大変な時代となってきた。

例えば携帯電話による各種のメールサービスやiモードの様々なサービスなど、 情報技術開発に少なからず関与している私ですらもはや敬遠気味である。 自在に操ればそれなりに便利だろうと想像はするものの、 あの面倒くさいボタン操作はなかなか敷居が高かろう。

インターネットも、しかり。まず接続するまでが大変だ。 やれプロバイダが何だ、パスワードを入れろ、アドレスがどうだ。 設置すればすぐ使える電話やテレビとは大違い。 ネットが使えるようになってもキーボード操作に抵抗感を持つ人は少なくない。 タイピング練習ソフトが大流行なのも、さもありなん、である。

情報格差を是正する試み

ITをうまく活用すれば生活はより楽しくなる。 知りたいことがあれば検索エンジンで調べモノ。買い物はEコマースで。 不用品はネットオークションでリサイクル。 遠方の友だちともメールやチャットで気軽に連絡を取る。 …このようにITを積極的に活用している人とパソコン苦手組の人、 その間で暮らし向きに差が付く不公平のことを「情報格差」(デジタル・ディバイド、 digital divide)と呼び、昨今のITに関する社会問題のひとつとされている。

情報格差を是正しようという試みは現在いろいろと行なわれている。 これらの活動は「すべての人が情報へのアクセスを」という意味から 「情報バリアフリー」と呼ばれることもある。 ここではそのうち高齢者を対象とした組織をふたつ紹介しよう。

メロウ・ソサエティ・フォーラム:
通産省が提唱する メロウ・ソサエティ(円熟社会)構想を推進する団体。 来るべき高齢化社会における高齢者の社会参加をパソコンとネットワークを利用して支援する組織で、 財団法人ニューメディア開発協会内に設置されている。
シニアネット(米国):
高齢者のコンピュータ利用を支援するアメリカの非営利団体。 その歴史は古く、設立は10年以上も前に遡る。 会員になるには50歳以上である必要があり現在34,000名以上の会員から構成されている。 日本でも同様の活動が様々な場所で行なわれており、国内にも 多数のシニアネット組織がある。

格差是正の落とし穴

ところが情報バリアフリーの実現はなかなか簡単にはいかない。 それは、一見矛盾するようだが情報技術自体がまだまだ未成熟だからだ。

例えばタッチパネル。 マウスやキーボードの操作を不得手とする人でも、 タッチパネルで画面に触れられれば直感的な操作ができそう、と思う。 なぜなら銀行のATMはほとんどの人が操作できるのだから。 ところが実際パソコンの画面は細かいのだ。 タッチパネルで微妙な操作をするのは逆に難しい。 実際に使ってみると、よけいイライラさせられることもある。

それからマルチメディアコンテンツもそうだ。 文章をテキストで表示されるよりはビデオや音声のほうが理解しやすい、 と誰でもまずは考える。 TV放送が日頃から親しまれていることを想定すれば、しごく当たり前の論理だ。 ところがパソコンで映像を見ようとしてもなかなかうまくいかないことが多く、 設定でつまずく。あるいは回線が細くて満足な映像が見られない。 これならまだテキストをチマチマ読んだほうがマシだ、となる。