着々と進むITの医療応用

ITが痛みや負担をやわらげてくれるなら、この分野、期待してもよさそうだ。 ITの医療応用は、いま、どれほど進んでいるのだろう?

在宅医療

数年前からコンピュータやテレビ電話による在宅医療への診療報酬が認められるようになった。 例えば、セコムの在宅医療支援システム MediData(メディデータ)は、 自宅の機器で測定した検査データをナースセンターに送ると、 看護婦がチェックし主治医へ報告する。 これは、高齢であったり、遠くの病院に通う患者にとっては朗報だ。 何より病院で診察を待つより、自宅で待っていた方が気楽だろう。 もちろん、症例によっては、Face to Faceの方が好ましい場合もあろうが。

インフォームド・コンセントという言葉を聞いたことがある方も多いと思う。 医師が患者に、 「診療の目的・内容を十分に説明し患者の同意を得て治療すること」をいう。 国立がんセンターでは脳の3次元モデルに基づき、 病状を把握できるシステムを開発している。 脳モデルの部位をマウスでクリックすると関連する病状の説明がイラストつきで現れる。 マウスの動きとともに脳もぐるりと動くので、 難しい医学書を読むより、直感的で分かりやすい。 専門医から遠隔地の患者へのインフォームド・コンセントにも活用できる。 将来、回線速度が速くなれば、高画質テレビなどにより、 より詳細な画像や顔色による診断もできるようになるだろう。

VRの医療応用

VRで血管縫合のシミュレーションまでできる時代になった。 米国のBoston Dynamics,Inc. が開発した外科手術シミュレータがそれだ。 ディスプレイを見ながら、実際のメスなどを操作して、 外科手術のシミュレーションが行える。 手術器具の先にはハプティックデバイスという装置が着けられており、 これが器具の仮想空間上の位置を調べ、実際の手術時と同じような「触感」を与える。 ハプティックデバイスは、筆者も試用したことがあるが、現物を触るのと比べ、 表面のざらざら感などの表現に少し違和感が残るものの、形状の把握は十分でき、 様々な分野で応用できる可能性は高いと感じた。

一方、内視鏡でみるのと同様な、 人の器官内などの映像を仮想空間に再現するシステムが開発されている。 これは、 MRICTスキャン により取得した人体特性データを3次元CGで再現する技術だ。 胃などの内視鏡検査は、準備も含め約半日かかり、患者の負担もそれなりにある。 しかし、このバーチャル内視鏡システムでは、 データ取得に20?30分かかるだけで、患者の負担はほとんどない。 万一、内視鏡検査を受けなけれるようなときは、 ぜひとも、このバーチャル内視鏡システムでお願いしたいところだ。

ITの医療応用への期待

手術などの痛みをできるだけ小さくし、 患者の負担を軽くする医療は「低侵襲医療」と呼ばれ、 近年、医療分野で注目されている。 バーチャル内視鏡システムなどは、 今まで不可能であった低侵襲医療がITにより可能になった好例だろう。 とかく利便性や合理化追求に目を向けられがちなITが、 医療分野では「人にやさしい技術」として役立とうとしている。 きたるべき高齢化社会に備えるという意味でも、 この分野のさらなる発展に期待しよう。