OS無償化の功罪

Sun の Solaris が無償で提供されることになった。ユーザとしてはタダで使えて喜ばしい限りだが、本当にうれしいことばかりだろうか。

Linuxという名のフン族

今回無償化された Solaris は Sun が提供している Unix 系 OS だ。Sun のワークステーションだけでなく、パソコンでも稼働する。人気のある商用 (有償)Unix が無償となったため、多くのアプリケーション開発者や研究者が注目している。

Unix 系 OS といえば、ここ数年は Linux が人気を集めている。 無償・高性能・導入が簡単なパッケージなどがその魅力だろう。確かにかっこいい GUI やアプリケーションをすぐに使えるというのはすばらしい。

安くて優れているものに人々が惹きつけられるのは当然のことだが、その結果、他の商用 Unix メーカは深刻な打撃を受けた。フン族に追い出されるゲルマン民族さながら、新しい住処探しに苦心している。OS では儲からないのだから、別のビジネスモデルを考え出すしかない。

苦戦する商用Unix

パソコン向け商用 Unix の老舗である SCO は、数年前に Novell から UnixWare という Unix 系 OS を買収し、事業拡大を図った。しかし業績は思ったほど上がらず、最近になって OS のオープンソース化や非営利目的への無償提供を表明した。同社は OS 以外にも優れたミドルウェアを持っており、商売の中心をそちらに移したわけだ。

やはり商用Unix の BSD/OS を販売してきた BSDI は、非商用 Unix である FreeBSD のパッケージ販売会社 Walnut Creek CDROM を買収した。 BSD/OS, FreeBSD ともに、Linux や Solaris よりも歴史が古く、「BSD 系」と呼ばれて親しまれている Unix だ。BSDI が当面目指すは BSD 系 Unix の統合だが、将来は BSD/OS の無償化も避けられないだろう。同社は OS 以外に売り物がないだけに、今後はサポートサービスへと事業転換してゆくのかもしれない。

Solaris を無償化した Sun の場合はすこし事情が異なる。Sun はインター ネットビジネスでかなり成功しており、業績も好調だ。仮に OS で儲からなくても、大規模並列サーバマシン、ストレージ、java、アプリケーションサーバと持ち駒が多い。それだけに Solaris の無償化も勝算ある戦略とみることができる。

すこし毛色の違うところでは、BeOS も個人向けバージョンの無償提供を開始した。BeOS はマルチメディアに強いと言われており、数年前に Apple が買収するという噂がたったことでも有名だ。Linux と同じくソースコードは元からオープン(開発者が自由に使える)だったので、今回の無償提供開始はむしろ、単純に利用者拡大効果を生むだけかも知れない。

OS無償化への危惧

OS の無償化について私が危惧しているポイントは2つある。

一つは、OS の多様性が失われてしまう点だ。Windows の例を持ち出すまでもなく、寡占状態はろくなことを生み出さない。商用 Unix が苦戦する中、多くの Unix 系 OS が生き残ることを願うばかりだ。

OS 開発に関わる人材という点も心配だ。企業が儲からない事業に人材をつぎ込むとは思えないし、個人で OS 開発に携わっている人々が今後も開発を続けてくれるとは限らない。技術的な好奇心や名誉以外にも、若い技術者を OS 開発に惹きつける新しいビジネスモデルが必要なのではないだろうか。

短期的にみれば、利用者にとって OS の無償化は歓迎すべきことだ。しかしその裏にある思惑や将来の技術者離れを考えると、喜んでばかりはいられない。