復活の兆し、立体テレビ

立体テレビの原体験

「立体テレビ」とか「3Dシアター」という文字を見るとワクワクしてしまう。 その昔「飛び出す絵本」で刷り込まれた原体験が効いているのかもしれない。 最初に出会ったのは子供向けミュージカルのチケットに張ってあった自動車の立体写真だった。 見る角度によって別々の写真が浮き出すのが面白くて長いこと眺めていたものだ。 これはレンチキュラーイメージと呼ばれる筋状のプラスチックレンズを使う方法で、 現在でもポストカードやCDジャケット用に販売されている。

コンピュータを利用した初期の立体映像は、 青と赤のセロハンを張ったメガネをかけて見たものだった。 ワイヤーフレーム(線画)の飛行機がくるくる回っていたのを覚えている。 ステレオグラムと同じで神経を集中しないと浮き出てこないので、とても疲れるものだった。

近ごろ低調な立体映像

本格的なカラー立体映像にショックを受けたのは、1985年のつくば科学万博のことだ。 国内メーカ各社が競って開発した巨大スクリーンから飛び出す映像は、 行列してみるだけの価値はあった。 その後、ディズニーランドのキャプテンEOをはじめ、 各地に3Dシアターがオープンしたが、 それほど魅力を感じないし、大盛況という噂も聞かない。

振り返ってみると、立体映像で結局あれ以上の感動はなかったように思う。 特別なメガネをかける煩わしさの他に、 不自然に強調された立体映像に疲れてしまい「すごい映像だったね」 という以上の魅力が感じられなかったからだろう。 数年前に 立体テレビ家庭用も商品化されたが失敗に終わった。 立体ビデオカメラや、 普通の映像を立体化するテレビは、すき間商品の域を出ない。

21世紀は立体テレビの時代か?

しかし、とうとう立体テレビの時代が来るかもしれない。 メガネ不要の立体テレビが実用化の一歩手前まで来ているからだ。 少し前までは、真正面の一人しか立体に見えなかったり、首を傾けたら画像がずれたりと、 実用レベルではなかった。 ところが、最近になって、 視聴者の向きに合わせて最適な立体映像を映したり多人数で同時に観られたり寝転んでも正しく映る新しい立体テレビの開発が進み、実用化の兆しが見えてきた。 2020年には巨大マーケットに成長するという予測もある。

テレビ放送の21世紀初めの10年はデジタル化とハイビジョンの時代になる。 その次は立体テレビ放送ということらしいが、 立体テレビ技術が確立し標準化されるのに10年で足りるだろうか。 むしろ、インターネットでの立体商品説明や立体テレビ電話など、 場面を限定したコンピュータでの利用が先になりそうだ。 液晶ディスプレイに部分的にかぶせる液晶シャッターがあれば、 今でもかなり安く実現できるのではないか。

おそらく10年もすれば実用的な立体テレビが開発できる。 ただ、実物と見まがう質感やリアルさ、 SFのように何もないテーブルの上に浮かび上がったりするのは、さらに先の話だろう。 遠く離れた二人が同じソファーに坐り、 手を握りあって会話できる究極の立体テレビが実現されるのはいつの日だろうか。