IT分野における国家産業技術戦略のシナリオは

日本におけるIT産業のリード役は?

2010年の日本のリーディング産業を育成しようと、「国家産業技術戦略」なるものの策定作業が進められている。むろん、情報通信はこの戦略においても最も重要な産業分野の一つである。筆者も仕事の関係上、特に欧米と比較して劣っているソフトウェア分野について技術優位に向かうような妙案を探すのであるが、これがなかなか見つからない。

期待される研究開発型ベンチャー企業の厚みがまだ出てきていないなか、ソフトウェア技術の研究開発に欠かせない人材はどうしても大学と大手企業に集中したままである。ところが、日本の大学からは、論文はともかく画期的なソフトウェア技術が生み出されるケースは依然として少ない。大学システムの変革も徐々には進んでいくのだろうが、これはやや息の長い話と覚悟しなくてはならないだろう。すると当面はIT関連の大手企業にはIT産業のリード役を担ってもらいたい、という期待が膨らむのだが果たしてどうだろうか。少なくとも、PCや分散ネットワーク分野のように、すでに技術劣位がはっきりしている分野を逆転するようなインパクトまで、期待するのは難しそうである。

マネジメントの違い

単刀直入に言うと、日本のIT企業の戦略マネジメントには、世界のITリーダ企業がもつような「パースペクティブ」が欠ける分、IT産業を変革するようなIT技術を生み出すポテンシャルは期待し難い。例えばMicrosoft社がデスクトップPCの市場で果敢に顧客を”囲い込む”過程や、Sun社が”The
network in the
computer”と称して多様なプラットフォームの相互運用性を追求する過程を検討すると、その是非はともかく、それぞれ市場や技術に対する明確な「パースペクティブ」を持って動いている、と映る。こうした「パースペクティブ」は、コア技術をベースに起業した当初に確立され、多角化戦略をとって巨大企業となった今でも戦略形成の拠り所になっている。他方、日本の大手IT企業の場合は、「トータルソリューション」と称して多様なニーズに応える柔軟性を豊かにもっている反面、こうした独自の「パースペクティブ」を持ってIT産業の構造を変革していくようなインパクトを作り出してきた実績が乏しい。フルライン型経営を続け、すでに多角化したビジネスの一部としてIT部門が存在してきた、というITビジネスの生い立ちにも一つの原因があるように思われる。

周囲の環境の違い

もう一点、特に米国に拠点をおくITリーダ企業の周囲には、独創的な技術を有する生れたばかりのスタートアップ企業が多く存在していることも、相対的に日本のIT関連大手企業にとって不利な要因である。異なった技術やプラットフォームを組み合わせることで、新たな技術や市場が作り出されることが多い情報技術の場合、必要な技術を取り込むための企業提携やM&Aの対象が豊富に周囲に存在していることは大きなメリットである。しかし、これは日本ではそもそもベンチャー企業の厚みが出てこない、という先の問題に戻っていってしまう話である。

急がば回れ

以上のような訳で、今の所、現在の大手IT企業が日本のIT産業技術を画期的に変革していくような状況が、なかなか想像し難い。有り得るとすれば、情報家電や携帯情報機器などのように、まったく新しいプラットフォーム上の競争がどうなるか、という議論の余地が残るのだが、こちらは国際的な企業の合従連衡があって、なかなか状況を捉え難い。

結局、今の所言えるのは、「急がば回れ」ということになってしまう。日本の中では、大学システムの変革とベンチャー企業育成の筋道をつけることがどうしても必要だ、といういつもの結論である。もし、これ以外の妙案が出てきたら、是非、再びここで議論してみたい。