新たな情報技術研究開発の仕組

情報科学技術研究開発の重点領域

日本でも新たな情報技術研究開発に向けた議論が活発化している。最近になって科学技術会議 情報科学技術委員会は、「情報科学技術への取組みの変革・強化を加速するための先導的な取組み(先導プログラム)」において概ね10年以内に達成を狙う研究領域(重点領域)の
原案 を公表した。

中味を読んでみると、「安全で豊かなネットワーク社会の構築」、「人にやさしい情報システムの実現」、「先端的計算によるフロンティアの開拓」といったやや曖昧な表現で重点領域が設定されており、そうした領域で実際に研究開発する技術項目には、比較的オーソドックスなものが並んでいる、という印象をうけた。

むしろ情報科学技術研究開発の仕組の議論を

原案の内容自体はこれで良いのだと思う。そこで掲げている「社会のニーズを明確に指向した情報科学技術の基礎・基盤の強化」という方向性は、日本全体の情報技術研究の方向性を提示するものとしては役不足な表現だと思うが、考え得る一つの道ではある。こうした方向性に向けて何らかのテーマ設定を行おうとすると、色々な意味のバランスを考慮して原案のような作文になる。これはある意味で仕方がないことだ。問題だと思うのは、このようにしていくら重点領域を設定しても、結局我が国の場合は、実効性のある研究開発を行い、それがまさに社会のニーズを満たしていくようなシナリオが、少なくとも筆者には見えてこないことだ。情報科学技術研究開発の確固とした仕組が日本全体として確立されていないからだ。

米国のIT2構想

情報科学技術研究開発では日本を振り切ってしまった感が強い米国の場合も、最近になって「社会のニーズを明確に指向した情報科学技術の基礎・基盤の強化」という方向性が重視されているようだ。従来の
HPCC計画に対する追加予算措置として計画されているInformation
Technology for the Twenty-First Century Initiative
(IT2構想)
が基礎・基盤研究寄りのスタンスをとっている。それでは、ここで実際に検討されている重点領域や技術項目を見ると、必ずしも日本の原案と比べて迫力があるとは思わない。ただ違うのは、これまでに米国が何をしてきたかをある程度知っている筆者には、そこに書かれている技術項目がどのように研究開発され、重点領域にどのようにアプローチしていくか、というシナリオが若干でも想像することができることだ。

良い意味での縦割主義

米国における情報技術研究開発は、良い意味で「縦割主義」だ。前回紹介した国防高等研究計画局 (DARPA)
は、目的指向型の研究開発を推進することを得意としており、そのために必要な多くの専門スタッフとノウハウを擁している。国防上利用可能な技術の研究開発が主眼となるため、「使える本格技術」の開発は必須であり、そのために多様な産学の研究開発チームを資金・ノウハウ両面で支援する。米国ベンチャー企業のリーダの多くは、こうしたチームからのスピンアウト組だ。逆に全米科学財団 (NSF)
は、小数の研究者が行う多様な基礎研究にバランス良く助成し、基礎研究基盤の底上げに大いに貢献している。大規模プロジェクトを抱えるNASA、計算科学のビックスポンサであるDOEなどのように、独自ミッションのための情報技術研究開発に力を入れている所もある。

研究開発スキームの調整

米国における情報技術研究開発政策の主眼は、こうした個別の推進スキームを尊重した上で、それらの間の連携やテーマ調整をトップダウンに行い、その時点で最適な全体としてのポートフォリオを与えることだ。「社会のニーズを明確に指向した情報科学技術の基礎・基盤の強化」に向けても、実用技術を数多く生み出してきたDARPAや基礎・基盤研究を支援してきたNSFが連携すれば、かなり実効性を伴った仕組が作れる(今回はDARPAやNSFのプログラムマネージャが緊密な相互交流するというから、かなり有効なシナジ効果が出てくるのではないか)。

日本でも、もはや重点領域の整理だけで議論を終えてほしくない。重要なのは、その重点領域を実効的に掘り進んでいくための仕組をきちんと確立することだ。ただし、この仕組は容易には構築できない。したがって、この仕組作りには直ちに着手しなければいけない。